はじめて、しましょ★ - 自覚編 -
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それはある日の晩のこと。

ハヤトは会社の食堂の端っこのスペースを借りて。真剣な表情で作業に取り込んでいた。

それは…どうやら料理―――いや、正確には菓子作りのようで。ボウルの中には生クリーム、湯煎されたチョコレートなどが入っていて。

その一帯だけ甘い香りが一杯に広がっていた。

ハヤトは一生懸命にレシピとにらめっこしながら作業を進めて。ハヤトはそれに集中していて。

…だから。背後に誰かが来たことも。その人に声を掛けられるまで気付かなくて。


「…こんなに遅くまで何やってるんだ?」

「はゎ!?あわわわわわわ!?」


びっくー!とハヤトは驚いて。そして続いてざくっと嫌な音がして。


「あぃったー!?」


どうやらチョコレートを微塵切りにしようと手にしていた包丁で指を切ってしまったらしくて。


「………何してるんだ?お前」

「あ、あぅう」


今度は先程と意味合いの違う口調で。呆れ返ってしまったかのような言葉で。ハヤトは思わず涙目になる。

しかしリボーンは素早くハヤトの手を取り。膝を折って、その一筋の赤い線が走る指を口に含んだ。


「っ!?リ、リリリリ、リボーンさんんんんん!?」

「傷が残ったら困るだろ。消毒だ」


お前は会社の商品なんだから、傷物になったら困る。と言ってリボーンは傷口を舐め上げる。

その声を聞いて、ハヤトは何故か感情が冷えるような感覚に陥って。

…何故?リボーンは何も間違ったことなど言ってない。

何かあるとハヤトの様子を見に来てくれるのも、なんだかんだ言ってハヤトの体調を思ってくれるのも、全ては仕事だからだ。

ハヤトはその事を無論理解していて。…けれど。何故。こんなにも―――それを想うと胸が痛むのか。


「…どうした?ハヤト」


気が付くと、リボーンはハヤトの指から口を離して。ハヤトを見上げていて。…近い距離。少しだけ近付ければ、触れられそうな。

ハヤトはリボーンを真っ直ぐに見る。その整えられた顔にどきどきが止まらない。

…けれど、ハヤトは知っている。彼がただ格好良いだけじゃない事を。

リボーンは仕事に厳しくて。妥協も半端で終わらせることも絶対にしなくて。

何度涙で枕を濡らしたのか分からない。(けれど、それはいつもハヤト自身にプラスになって帰ってきて)

リボーンが傍にいるといつも緊張して。気を張って。

でも。…彼と離れると胸の奥が切なくなるような感覚に陥ったのは、いつ頃からだっただろう。(傍にいたら、身体が熱くなって。遠のいたら、寂しくて)

最愛の姉にこの事をそっと相談したら、笑って教えてくれた。それは―――


「…リボーン、さん…」

「なんだ?」


ハヤトは静かに深呼吸をして。意を決して…


「リボーンさんは…ハヤトのこと。…見てくれるのは、仕事だから…ですか?」


リボーンが不思議そうにハヤトを見つめてくる。ハヤトはそんなリボーンを見ながら更に口を開く。


「ハヤト、は…ハヤトは。………リボーンさんのことが…!!」


それは、告白。

一人の少女の、愛の告白。


彼を見るとどきどきが止まらない。

彼が近くにいるととても熱くて。そして遠ざかると何故だか悲しくて。

最愛の姉にこの事をそっと相談したら、笑って教えてくれた。

それは―――


それはね、ハヤト。

きっと恋よ。