はじめて、しましょ★ - 沢田編 -
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お店の外を出て、今度は二人でゆっくりと歩いていく。
ゆっくりと、ゆったりと。まるで時は無限にあるかのように。何も気にせず風に吹かれながら。
けれどそんははずもなく時はゆっくりと流れてく。一日が終わっていく。
気が付けば空は青から紅へと変わっていって。社長はハヤトを小高い丘のある公園とへ誘う。
…そこで夕日を見て。そうして帰ろうというのだ。
ハヤトはそれに了承して。丘へと登っていく。
そこにはなるほど、社長が見ようと誘うのも頷けるほどの綺麗な夕日が広がっていた。
「わ…社長!凄いです!凄い凄い!あんなにまん丸です!」
「うん。…ハヤト。そんなに走らないで。転んじゃう」
平気ですよー!と笑っているハヤト。もう朝の落ち込んだ様子はどこにもない。
「………ね。ハヤト」
「はい?なんですか社長」
「―――名前で、呼んでくれないかな」
「…?綱吉…さん?」
ハヤトのその言葉に、社長はうんと満足げに頷いて。ハヤトを呼び寄せる。
「ね。…ハヤト」
社長はハヤトの肩に手を置いて。その顔を真っ直ぐに見て。
ハヤトは初めて見た社長の真剣な眼差しに何事だろうと模索する。けれど何も分からない。
「オレ…さ。最初はキミのこと。子供だって思ってた」
最初はそうでもなかったのに、気が付くと目が離せなくて。放っては置けなくて。
いつからか何かと用事を無理矢理にも付けて。彼女の様子を見に来たりして。
ハヤトを中心に騒ぐ周りを見て。そして笑ってひっそりと帰って。それで満足。
…たまに、騒ぐみんなの渦を更に乱して帰るときもあったけど。
「でもね。それは違った。―――キミは子供じゃなかった」
当たり前のことなんだけど、でもそれに気付けなかった。
彼女は一人のか弱い女の子なんだってことに。気付けなかった。
「キミはとても魅力的な女性だった」
そのことに気付いたら。…気付いてしまったら。まるで急に波が来たかのように感情が爆発して。
くるくる変わる表情が可愛らしい。
いつも一生懸命な仕草が愛おしい。
この自分の気持ちに気付いたのは、皮肉なことに…彼女が想い人に振られてから。
彼女の気持ちは知っていた。けれどあいつは仕事の鬼だから。ハヤトに見向きもしない事だって理解していた。
他人の気持ちはこれ以上なく分かるのに、まさか自分自身の感情に気付くのにこんなにも時間が掛かるだなんて…
まったく、不覚だと社長は笑う。
―――沈むハヤトは見ていて辛かった。
この分だと仕事に行かせても上手くいかないだろうと判断して無理矢理にも仕事はキャンセルした。彼女には休暇を。
そうしてハヤトと共に町を出歩く。…少しずつ元気になっていく彼女を見るのが楽しかった。
そして。…ゆっくりと時をかけて彼女を見て。自分自身にずっと自問していた。
本当に自分は彼女のことが好きなのかと。
ずっとずっと考えて。そうしているうちに日が暮れて。…そして。結果がようやく出た。
「ハヤト」
短く放った彼女の名前。彼女はこちらを見上げている。
手から伝わる細い肩。細い身体。きっと抱き締めたら折れてしまう。そんな華奢な身体。
「―――――好きだよ」
社長はそう言うと、何か言葉を発そうとしていたハヤトを引き寄せて。
その唇を奪った。
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