オレの身体は、結局ベッドの上に落ち着いた。


だって、相手がリボーンさんなら、大丈夫だから。


リボーンさんは、まだ少し。気にしてたみたいだけど。


けれどだからと言って床でするわけにもいかず。オレの身体はオレの言葉もあってベッドの上へ。





…リボーンさんがオレの服を脱がしていく。


オレの肌が露になっていく度、リボーンさんが息を呑み、怒りに身を震わせる。


オレの身体には赤い痣が。


まるで何かの病気のように、いくつもの赤い痣が無数に広がっていた。


オレも自分で驚いた。


あの時は余裕なんてなくて。自分を見る暇もなくて。


…縛られてたし。





そう、縛られていた。


オレは縛られていた。





千切れてしまうのではないかと思ったぐらい、強く強く縛られた。10代目に。





その痕を、今初めて見た。


他人事のように思う。


なんて痛々しいんだと。


普段から自分の怪我に無関心なオレでさえそう思ったんだ。


リボーンさんは…





その顔を、つらそうに歪ませて。


まるで自分がされたかのように、痛そうな顔をして。


そっと、傷痕に触れて。


額に、軽く押し当てる。





その、なんと優しい事。





リボーンさんがオレをどれだけ、どれほど思っているかが肌を通じて伝わってくるみたいで。


それは涙が出てくるほど嬉しくて。実際、泣いて。


リボーンさんがオレに気付き、傷痕から手を放した。





「…痛かったか?」


「いえ…」





痛くはない。


痛いはずがない。


ただ…嬉しくて。


こんな身体になったのに、変わらず触れてくれる、あなたが。


そう思えば、それだけであなたにはすべてが伝わる。


あなたの前ではオレは裸も同然だ。





リボーンさんがオレの涙を拭ってくれる。


オレは目線で、リボーンさんに囁く。





   キス…したいです。





そう願えば、リボーンさんはすぐに応えてくれる。


オレたちは口付けを交わす。


久し振りの感触。


あいつらと比べるのも失礼な程、優しいキス。


長い間、オレたちは触れるだけの口付けをしていた。そうしていたかった。





そして、やがて。





リボーンさんがオレの唇をそっと舐め。


オレもそれに応えようとして。


舌を出そうとして。


途端、口内に激痛が走った。





「…獄寺?」





思わず呻いたオレに、リボーンさんが口付けをやめ、オレを見る。


そして…何かに気付いたのか、リボーンさんの指がオレの唇に触れる。


リボーンさんはオレの口の中を見て。


顔をしかめた。





「唇を噛んで耐えていたのか」


「あ…」





ああ、そうだ。


そうだった。


そういえば声を出すまいと、気持ち悪さに耐えようと、歯を食い縛り…唇を、噛んでいた。


…そうする体力も、気力も。やがてなくなっていってしまったのだけど。


舌で傷口を確認してみる。そっと触れただけも強い痛みを感じた。





「治るまで、キスはお預けだ」


「えー…」





オレは不満顔。不満声。


だって。嫌だ。


オレは早くリボーンさんに上書きしてもらいたいのに。


だというのに。





「治るまでお預けだ」





リボーンさんは譲る気は全くないらしい。


悲しい。


リボーンさんが痣の一つに触れる。





「まずは、これからだな」


「ぁ……はい…」





………。


この、無数に付けられた痣の…上書き。


それは…つまり……





「―――ん、」





リボーンさんが、オレの首筋に舌を這わせ…吸い付く。


思わず身が捩れる。


は…


恥ずか…し、い……





「…嫌か?」





リボーンさんがそう聞いてくるけど、そんなわけがない。


オレは必死に首を横に振って否定する。


けれど、たった一つの上書きでこれだ。


いくつもいくつもある痣の、たった一つ。


それを…全部。リボーンさんが…今のを……





「ぁ―――んんっ」





オレがそう思う間にも、リボーンさんは一つ、また一つと上書きしていく。


オレは思わず声を抑えようと、唇を―――





「堪えるのは構わないんだがな。口は噛むなよ」


「ん、ぁ―――…っ」





リボーンさんに先を読まれ、釘を刺され…変な声が出てしまった。


そうしている間にもリボーンさんはその口を首から鎖骨、その下へ。


…え、その下?


ちょっと待って下さい、そこは―――





オレが制止する間もなく。


オレが身を強張らせる隙さえなく。


リボーンさんはオレの胸に口付ける。





「あぁっ! ―――だぁ…めっ!!」





身体が大きく震え、それ以上に大きな声が出る。


リボーンさんがすぐに身を離し、オレを心配そうに見る。





ああ、違うんですリボーンさん。


嫌だったんじゃなくて、その―――





…あの悪夢で一番変えられたのは、きっと胸で。


何度も執拗に。絶え間なく刺激され続けて。


…変な声が出るように、なってしまって。


そんなところを、リボーンさんに触れられたら…オレは―――





「…ここは、今日はやめとくか?」


「だめ…です……」





リボーンさんの提案を、オレは蹴る。


だって、駄目だ。嫌だ。


オレはリボーンさんを抱き寄せる。


リボーンさんの顔が、オレの胸に付く。





「オレ…その、胸……なんか、おかしくなったみたいで…」


「ああ」


「すごく…変な声、出たら…リボーンさん、引きますか?」


「引かない」


「嫌ったり…」


「嫌わない」


「捨て…たり……」


「獄寺」





リボーンさんが、オレの名を呼ぶ。


…怒った声で。


リボーンさんの指が、オレの胸を摘まんだ。





「んんっ…ぁ、」





変な声が出る。


リボーンさんが指の力を強めながら、オレに言う。





「殺されたいか?」


「い、いえ、そんな……ぁっ!!」





リボーンさんがオレの胸を攻め立てる。


指で、舌で。痣の上書きもしながら。


動きが、段々と激しくなっていって。


オレの口からは声が。


はしたない声が…溢れて。零れて。堪えきれなくて。


身体が捩れる。


心が乱れる。


自分の口から洩れてるはずの声が、遠くから聞こえる。


やがて…





「…参ったか? 参ったらもう馬鹿なこと言うなよ」


「は―――ぁ―――」





リボーンさんの、そんな声が聞こえるけど、答えられるはずもなく。


オレは呼吸するだけで手一杯。


だけどリボーンさんはオレが落ち着く間もなくオレの腹へ。


ああ、胸の上書き…いつの間にか終わったんですね。





腹…は、腹…も。オレは弱いらしい。


触れられるとくすぐったくて。…特に臍は…もう、駄目だ。


駄目なのに。いや、まあ駄目だからこそなんだろうけど。


面白がられて散々付けられた赤い痣が上書きされていく。


それは、いいの、だけれど。





「ぁ…んんっ」





声が。


声が、抑えられない。


さっきの…胸の、上書きで…身体が、敏感になっている。


変な声が…出て。


身体…捩れて。


でも、感覚からは逃れられなくて。





声…止まらない。





やっぱりオレの身体…おかしく―――はしたなく―――――いやらしく―――――なってる。


そう思う間に、リボーンさんはオレの太ももへ。


胸や腹よりはくすぐったくないとはいえ…場所が場所だけに……恥ずかしい。


…しかも、なんか、結構内側というか…際どいところまで…上書きが……


あの野郎…どんなとこまで痣付けてくれてるんだ…絶対殺す……いやもう死んでたか。


などと。なんて。思っていたら。


不意に―――リボーンさんの動きが止まった。





「…リボーン、さん?」





言うも、リボーンさんは何も答えず。


やがて―――顔を上げて。


それは滅茶苦茶、呆れ顔で。





え!? なんで!?





「り、リボーン、さん…?」


「…お前なあ」





オレの声には答えず、リボーンさんはオレの隣にぼふっと倒れ込む。


そして疲れた声で言う。





「こんな状態で上書きしろとか言うなよ…」


「え?」





オレの間抜けな声にも答えず、リボーンさんは出来るわけないだろ、と呟いている。





こんな状態?


どんな状態?


オレが襲われた状態?


いや、オレが襲われたから今その上書きをしているのであって?





んん?





疑問符を浮かべるオレを、リボーンさんが睨み付ける。


え、怖…


な、何ですか?


今度は溜め息を吐かれた。


だから何なんですか!!





「…オレに、お前の傷口を開かせるつもりか?」





傷口?


傷…口。


きず………





ああ、


そうか、


そういえば。





「あー…最初の日に10代目のを入れられたまま骸も入ってきて…」


「………」





滅茶苦茶痛かったなあ。


死ぬかと思ったし。


それからも骸はわざと傷口広げてきたし。


最後らへんは感覚なかったから、すっかり忘れた。


なんて思ってたら、殴られた。


リボーンさんに。


痛い…





「ああ、まったく、まったくもう…」





リボーンさんはオレを殴ったかと思うと広いベッドの上をごろごろしだす。


なんて年相応。


なんて愛らしい。


いや、リボーンさんの本来の姿はもっとずっと大人らしいから、この場合は子供っぽいだろうか。


しかしリボーンさんの身体はまさに子供で(なんていったって肉体年齢11歳だ)ならばはやり…


なんて思ってたら、抱き締められた。


リボーンさんに。





「…リボーンさん?」


「…本当にオレは……いつも後手後手で…嫌になる」





リボーンさんの、暗い声。


落ち込んだ、沈んだ声。


なんと珍しい。


あのリボーンさんがへこんでおられる。





「…これだけ下手撃って、散々恋人好きにされて、気に病まないはずがないだろ…」


「そんな…」





オレからしたら、リボーンさんは十分助けてくれてるのだけど。


まだまだ続くはずだった…本当なら今でも続いていたはずのあの悪夢。


そこから救い出してくれたのはリボーンさんで。


それにこんなに汚れたオレを見限りもせず、上書きしてくれて。


…そして。何より。





あの悪夢で、オレが壊れなかったのは…リボーンさんのおかげで。





リボーンさんを呼び、リボーンさんを思っていた。


ずっと…ずっと。


それこそ、夢と現実の区別が付かなくなるほど。


そうしてなかったら…オレは……


今…こうしてリボーンさんに抱き締められて、嬉しいと思うことすら出来なくなってて…





オレはリボーンさんを抱き締め返す。


その頬に、頬擦りする。


…あたたかくって、安心する。





いつしか瞼が落ちていて。


持ち上げる事が、出来なくなっていて。


もっと、あなたと話していたいのに。


もっと、あなたに触れていたいのに。


声が遠くなって―――感覚が消えて―――





   …リボーンさん。





呟いたはずの言葉は、声となっただろうか。


思うも、オレに確認する術はなく。


唇に、何か柔らかいものが触れて。


ずっと身体の中で張っていた何かが切れて、オレの意識はそこで沈んだ。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

…キスは、お預けじゃなかったんですか?


To be continued...?