標的167 その裏側
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「あ…ごめんね。大丈夫?」


くらくらする頭に降りかかる声。何かに捕まる。

うあー…首根っこ掴むなー…なんか変な感じだー…

と思ったら、今度はふわふわした何かの上に乗せられる。

………毛布の…上?


「頭ぶつけちゃったねー、いたいねー、でもキミどこから来たの?」


眼の前にちかちかと舞ってた星が消えた頃、ようやく視界が回復してくる。

目の前には…エプロンを付けた笹川の姿があった。

…キッチンか。ここは。

また変なとこに来ちまったな…

オレは未だふらつく頭を振って、気をしっかりと持つ。


…迷惑を掛けたみたいだな、笹川。


そう言ったつもりだった。まぁ口から出たのは相変わらずなーだのみゃーだのそんなのだったが。

…てか、笹川は安全そうだし…落ち着くまでここに…


「京子さんー!ビックニュースですよー!!!」


さて逃げるか。


忘れてた。オレ逃げてるんだった。なんでだろう。

ちょっと疑問を持つことにしたがそれよりも逃げるのが先だと結論を出した。休む間がねぇな。

オレはキッチンの扉が開けられると同時に、飛び出した。ハルには気付かれなかったようだった。

とてとてと歩く後ろから、キッチンから笹川とハルの会話が聞こえてくる。


「聞いて下さい聞いて下さい京子さん!なんとさっきにゃんこさんがいたんですよー!」

「あ、うん。私も会ったよー」

「はひー!かぁいかったですよねー!!抱き締め頬ずりお持ち帰りですよねー!!


オレ。危なかった。

てってってと歩く速度をオレはあげた。



えーと…さっきがキッチンだろ?だから…この角を曲がればいいわけだ。

見知った場所から現在の自身の場所を把握する。この分なら直ぐに部屋に戻れるだろう。

…いや、部屋に戻ってもなんの解決もしなさそうな気もするがな…本当どうしよう。

やや落ち込みながら歩いていると…ある部屋が見えた。

…ここは…。


………。


少しぐらい。顔見てくるか。



静かで暗い部屋の中。

クローム髑髏が眠りについていた。

疲労困憊栄養失調。全く、無茶をしたものだ。

…仲間を待ち続けた想いは…分からないでもないが。


「う…?」


あ。起きた。


「………」

「………」


眼が、合う。


「………かわ、いい」


…は?


ガシッと。掴まれた。

その手は氷のように冷たく。機械のように容赦がなかった。


「ねこ…かわいぃ…」


あーっと…クローム?

落ち着け?

あ。無理か。

だって眼。なんか逝っちゃってるし。


「…う"!ゴホ、ゴホゴホゴホゴホ!!!」


と、クロームはいきなり咳き込み、オレの手を離す。

た…助かった…


「ゴホ…ねこ…かは…!………ね…こ…」


いや、助かってない。

クロームやべぇ…吐血しながらも視線はきっちりオレに向いてるよ。ていうか血まみれの手をオレに向けてきてるよ。


怖いわ。


オレは後退りしながら部屋から逃げていく。


「ま…待って…待ってねこさん…ま…がは…!」


って無茶するなクロームー!!ベッドから落ちたし!血とかとんでもないし!!!


「ねこ…ねこさ…ねこさん…」


…なんか…逃げるのが物凄く悪いことな気がしてきた…

ていうかこのままオレが逃げるとクロームが死にそうな気がしてきた。


どうしよう。


「ねこ…さ…ぎゅって…させて…ふふ…ふふ、ふ…


あ。ごめん無理。


ここで捕まったらオレやっぱり圧死すると思う。

オレは素早く手早く回れ右をして部屋から飛び出した。


「待って…待ってねこさんー!!!」


って追いかけてきたー!!!


やばいだろ駄目だろ寝てろよ病弱っ子ー!!って言っても聞こえないか!もう何も見えてないかあいつ!!

というわけでまたしてもオレは我武者羅に走り回ったのだった!以上!まる!!ていうかあいつ足速ぇー!!!