午前五時
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桜が舞っていた。青い空に、薄い雲が敷かれていた。

眩しい日差しから逃げるように影に寄り、吹かれる風に身を任せていた。

そこに、一際濃い影が降ってきたんだ。

目を開けて、見上げるとそこには真っ直ぐな目線でオレを見るあなたがいた。


ああ、そうだった。そうでした。


そうだ。あの日。あなたと目が合って。そうかと思ったら、気が付いたらオレはあなたの手のひらの中にいた。

あなたの目はキラキラしてました。その少年のような目に、オレは思わず苦笑しました。

だってオレは、その時ですら既に型遅れで。売られている時すら廃棄処分セールだったのだから。

そのことをリボーンさんに告げると、リボーンさんは意外そうな声を出した。


「なんだそうだったのか?そういえば安かったな」


リボーンさんはオレが初めての携帯電話ということで色んなことを試してましたね。

時には取扱説明書を片手に一喜一憂していて、そんなあなたを見るのは微笑ましかったです。

ああ、オレを高いところから落としてしまって本気で心配してくださった時もありましたね。

思い出す。思い出せる。あなたと出会ってから、今日までの出来事、全部。

あたたかな思い出に包まれる。幸福を感じる。


…今なら。

今なら、聞ける。結果棄てられる未来となっても、受け入れられる気がする。


「…リボーンさん」

「ん?」

「オレ、最近よく眠くなるんですよ」

「そうか」

「それに疲れやすくて」

「電池もすぐ切れるようになったしな」

「ええ」


息が詰まる。声が震えそうになる。

それでもオレは口を開ける。


「オレ…もしかしたら、もう、寿命……なのかも、知れません…」

「………」


リボーンさんが黙る。オレも黙る。二人の間に沈黙が流れる。

やがて、リボーンさんが頭を掻きながら呟いた。