Family.
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どうやら結局隼人が面倒見てくれるらしい。ということをシャマルが思ったのは朝起きたら獄寺が作ったらしいお粥が飛び込んできたからだ。


「お前が作ったのか?」

「姉貴が作ったほうが良かったか?」

「うーん…」

「悩むな!!」

「ああ、いや、嘘だ。だから食器を下げるな。せっかくの隼人の手作り」

「…どーせ男の料理なんててめーは好かないだろうけどなっ」


むくれつつ、けれど粥を差し出してくる。その指先にいくつも張られた絆創膏がこう言っては悪いが微笑ましい。


「いただきます」


そう言って口に運ぶ。


「ごちそうさま」


食事は一口で終わった。


「早いな!」

「食欲がないんだ」

「不味いんだろ?不味いんだな?不味いなら不味いとそう言え!!」

「そんなことはないぞ。ビアンキちゃんよりうまい」

「姉貴を基準に出されてたまるか!!」


怒鳴りつつ、獄寺はシャマルから粥を取り上げて自分の口に運ぶ。その顔色が急激に悪くなる。


「…ごめん。シャマル」

「ん?」

「…塩と砂糖。間違えてた」

「ベタだな」


クックとシャマルが笑う。獄寺は少し落ち込んだ。


「…しかし。なんだな」

「…あ?」


静かになって。シャマルが口を開いた。


「昔はオレが寝込んだお前の面倒を見てたってのに…今や立場逆転なんだな。時間ってのは早いもんだ」

「…何年前の話してんだよ」


年寄りくせぇ、と吐き捨てる獄寺。それにもシャマルは笑って返すだけだ。

というのもそのシャマルに面倒を見てもらっていた時代。獄寺にはほとんど良い思い出がない。

何か功績を出しても反応は"出来て当たり前"。しかも愛人の子、クォーターということで周りの風当たりも強かった。

唯一褒めてもらえたのはピアノの発表会だが…もれなくビアンキの手作りクッキーを食べさせられるので大嫌いになった。


シャマルだけだった。


そのとき、獄寺にとって味方はシャマルしかいなかった。

些細なことでも良いことをすれば「偉かったな」と頭を撫でて褒めてくれて。

逆に悪い事をすれば遠慮なく拳骨を飛ばされた。けれどそれは愛人の子だからとかクォーターだからとかとは関係なくて。

シャマルだけが対等に接してくれた。あるときは兄として。あるときは父として。あるときは師として。総して…


「…隼人?隼人ー」


と、呼びかけられて獄寺の思考が浮上する。


「どうしたんだ?トリップか?ヤクか?上等なもんじゃねーと後処理が大変なんだぞあれ…」

「誰が薬なんて使うかー!少し昔を思い出してただけだっ」

「昔って?」


う、と獄寺が怯む。今考えていたことをこいつにだけは知られてたまるか!

なんていったって恥ずかしい。その昔、自分がこいつだけを頼りにしていただなんて。

知られてもからかわれるだけだ。「なんだ隼人。実はそんなにオレのこと愛していたのか…!」などと言われるだけだ。


「なんでもない」

「なんでもないってこたーないだろ。あんな顔してて」


ばっと獄寺は自分の顔を隠す。


「あんな顔!?どんな顔だ!?」

「さーな。なんでもないんだろ?」


からかうようにシャマルは言って。


「そうだ!」


やけになって獄寺は叫んだ。なんでもない。なんでもないんだ。

食事が終われば(あれを食事と言っていいなら)あとはだらりと雑談ムードだ。一応獄寺は買ってあったパンをシャマルに勧めたが本当に食欲がないのかシャマルは辞退した。あるいは警戒しているのか。


「こっちのは平気だぞ。市販のだし」

「そんな、オレには隼人のあの手作りだけで充分だ…!」

「嫌味かてめぇ!!!」

「だからこの程度で怒るなって。相変わらず沸点低いなお前ー」

「怒ってねー!」

「じゃあ怒鳴るな。すぐ怒鳴る奴は甘く見られるぞー。昨日も言ったけどもっと冷静にな」

「説教かよ」

「そういうのとはまた違うんだが…まぁ、年寄りの戯言として聞き流しておけや」

「はぁ…?」


獄寺は耳を疑った。こいつ今なんて言った?年寄り?

10年前からずっと何かある度に「オレはまだ若い!!」と言ってたこいつが?


「…熱でも………あるんだったな」

「お前、かーなーり失礼なこと考えてただろ」


こつん。と小突かれる。シャマルは咳をひとつ。