Family.
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「あー、わり。オレ眠いから寝るわ。おやすみ」

「お?おう」


獄寺が答える間に、シャマルは早くも眠りに落ちていた。静かな寝息が聞こえてくる。


…なんか、ホントに変な感じだ。

シャマルではないが、確かにこれでは立場逆転だ。どうにも調子が狂ってしまう。


「…ったく。早く治せよなー」


思わず、一人呟く。

言ってから、聞こえてないよな!?と思いシャマルを見るが…どうやら本当に寝ているようで、獄寺はそっと安堵した。

まぁ、明日だ。明日で三日。シャマルの言ってた三日だ。

一応医者なんだから、当てにもなるだろう。明日になれば全てが終わる。明日になれば全てが元通りだ。


シャマルは結局、その日はずっと寝ていた。


少し寝すぎなんじゃねぇのか、とも思ったがそういえば昔自分が熱を出したときも食事はあまり取らず、起きたら夜なんてこともあった。から。

こんなもんなのかな。と軽く思った。


シャマルが目を覚ますと、目の前に飛び込んできたのはみずみずしい果物だった。


「…昨日は粥で今日は果物か…風邪のときのお約束満載だなー…」

「しみじみ言ってる間があったらとっとと体調治せば良いだろ。今日で三日だ!早く治せ!治れ!!」

「何で脅迫口調なんだよ…そうだなー、なぁ隼人。ひとつ頼みがあるんだが」

「あ?」

「ピアノ弾いてくれ。久しぶりに聴きたい」

「はぁ?急に何言ってんだよ。ここはオレの部屋だぞ。ピアノなんてねぇよ」

「ボンゴレの一室にあるだろ。古いの」

「遠!ここからどんだけ離れてると思ってるんだ!!聞こえるわけねぇだろうが!!」

「いや。聴こえる。聴こえるね。何故ならオレと隼人の間には愛という名の絆があるからだ!愛があれば何でも出来る。つまりピアノも聴こえる」

「………」

「完璧だ」

「穴だらけだ馬鹿!!」

「そう言うなって隼人ー!後生だ!オレはまさに今!そう今だ!今お前のピアノが聴きたい!!」

「あーもううるせぇ!!分かったから黙れ!!」

「お」

「ったく、いい年した大人が情けねぇ…弾いてやるからそんなガキみたいにねだるな」


なんでも良いんだろ、と獄寺が聞くと、シャマルはもちろん。と返した。


「隼人が弾くなら、何でも良いさ」

「何でも…ねぇ。まぁ適当に弾いてくる」

「心は込めてくれよー」

「調子に乗るな!!」


まったく、と獄寺は悪態を吐きながら退室した。

シャマルはそれを見送って………

咳を、ひとつ。



ボンゴレのある一室。そこにあるのは大きなピアノ。

埃でも被ってるかと思っていたが、意外に掃除が行き届いていた。蓋を開けて盤を押せば音も出る。

椅子に座り、さてどれを弾こうか、なにを弾こうかと暫し悩む。

けれどやがて、最初に覚えた曲にしよう。と決めた。と同時に拙い腕でシャマルに披露した遠い思い出が蘇る。

…あの時。褒めてくれたシャマルが嬉しかったとか。しかもそのことをよく覚えてるとか。シャマル本人にだけは絶対。決して言えない。

気恥ずかしさに多少顔をしかめつつも、獄寺は指を鍵盤に置いた。


そして―――


―――――シャマルは獄寺が真相を知ったらどう思うだろうかと考えていた。

自分が風邪ではなく、もっと重い病気にかかっていることを知ったら。


…そもそも、シャマルが目に見えて病にかかるわけがないのだ。相対する病をかけて相殺しているのだから。

だから、もしもシャマルが病気にかかって、そのまま治らないと言うことは…


それは相対する病がないと言うこと。

それは治らないと言うこと。



それは、死ぬと言うこと。



ケホン。とシャマルは咳をひとつ。それをする度に寿命が減っていく。

シャマルは獄寺が真相を知ったらどう思うだろうかと考えていた。


自分が、本当は死に場所を探していたのだと知ったら。


本当は一人で死ぬつもりだったのだと知ったら。

こんな日が来ることぐらい、分かっていた。

だから取り乱しもせず、ただどこで死のうかと。それだけを思っていた。

…だというのに。


医者の不養生。だな。