Family.
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何で見つかっちまうかな…

よりにもよって。お前に。

一番見つかりたくない相手に。

適当にからかって、遠ざけようとした。…まさか逆上されて張っ倒されるとは思ってなかったが。

動かせない身体。それを隠しながら口に出すのはらしくない(本当にらしくいない)説教。

吠える隼人の声を聞きながら、気を失うように眠りに落ちた一日目。



実は食欲どころか、もう味覚なんてなかったなどと。言えるわけもなかった。

だから隼人が実は料理に失敗したらしい。と分かったときは安心した。食べなくても良いので。

しかし本当に不思議な気分だった。隼人に看病されるだなんて。

そうなるまで生きてるとは正直思ってなかったし、こう言ってはせっかく世話してくれた隼人に失礼なのだが…隼人にそこまでの甲斐性があるとも思ってなかった。

柄にもなく、珍しく…素直に礼を言ったというのに隼人に聞こえてなかったみたいなのには多少(いや、かなり)ガックリ来たが。



考える時間が出来て、思考を占めたのは残されるあいつのことだった。

余計なお世話、だと言うのは自分でよく分かっていた。あいつはもう子供ではない。

…のだが。

それでも気になることを口についてしまうのには、もう仕方がないのだと割り切った。



割り切って、二日目が終わった。

割り切るのは少し遅かった。



三日で済む。とシャマルはそう言った。

もちろんそれは適当に言ったのではなく、医師としての自分が患者としての自分を診た結果での話だ。

自分の命は、あと三日で終わると。

やっぱり、誰かに看取られるなんて。自分はそんなキャラではないとシャマルは獄寺を追い出した。

とはいえ、追い出しながらも口に出した言葉は結構本心でもあった。



今。隼人のピアノが聴きたい。



そんな最後は予想してなかった。

ひとりで死ぬのだと。シャマルはそう思っていた。

けれど、まさか。獄寺の演奏を聴きながらいけるなんて。

獄寺の言うとおりにピアノのある部屋とこことは離れているけど。でも静かにしてれば聴こえるだろう。耳を澄ませていれば。きっと。



………だというのに。

それを楽しみにしていたというのに。


「…オレ…がここにいるって言い触らすような隼人じゃないな。じゃあ何だ。こいつら隼人狙いか…?」


気付けば、殺気が。

いたるところに、殺気が。


「どこのファミリーのもんだ…?ったく、オレの隼人に手を出すなってんだ」


せっかく穏やかな気分だったのに。

台無しだ。とシャマルは呟いた。


「お前ら、静かにしろ」


死にかけの、それでも一度は伝説すらをも作った殺し屋はそう言った。



「オレは隼人のピアノが聴きたいんだ」



発病だ。

そう、シャマルは唇を動かした。



「………っと、」


獄寺は鍵盤から指を離した。一曲目が終わったからだ。


「…って、弾いたけどよ…本当に聞こえてんのか?」


獄寺は半信半疑で呟く。呟きながら、指は懐へ。とりあえず一服。と、


「………あ?」


いつもの場所に、煙草がない。

記憶を遡らせる。確か、そう。自室で吸った覚えがある。そのままか。


「…戻るか」


そしてシャマルに本当に聞こえたかどうかを聞いてやろう。聞こえてなかったらはたいてやる。そう心に決めて。



そうして獄寺は自室へと戻った。

血の海となってる自室へと戻った。



「は………?」


唖然。呆然。そのまま放心したように獄寺が固まったのは自室が変貌していたからではない。生きてる気配がなかったからだ。

死体があった。山のように。


その中には、ひとつたりとも生きてる気配はない。

…部屋の奥にいるはずの、あの医者の気配すらも。


「…シャマル…!?」


ようやく硬直状態から解き放たれ、獄寺は駆けた。

部屋の奥には、ベッドの中には……シャマルがいた。自分が吸う予定だった、煙草を銜えて。

辺りには相変わらず生きてる気配はないのに。


「おお、隼人。早かったな」


いや、気配はあった。ただ、希薄なのが。


「ピアノ。ちゃんと聴こえていたぞ。上手くなったな。昔はいつも同じところで音が外れていたのに」


そう言ってシャマルは、咳をひとつ。

そうしてシャマルは、盛大に吐血。