あなたへ贈る偽りの日々
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- 蚊帳の外 獄寺隼人の場合 -


「はぁ…リボーンさん夜に来るって言ってたけど、まだかな…」


病に焼かれている青年は、愛しい恋人を待ち続ける。

同じ病に焼かれている恋人を…その事実を知らないままに待ち続ける。


「何とか…オレが起きてるうちに来てほしいな…いや、違うか。あの人が来るまでオレが起きてないと駄目なんだ…」


ぶつぶつと獄寺は呟く。無意識ではなく、意識的に。

…そうしていないと、気付いたら意識を失ってしまいそうだから。

数日前…最後にリボーンが去ったあとから獄寺の容態は悪化していった。

身体に力は入らなく、眠るというよりは堕ちるように意識を失う。

次に目を閉じたら、もう開けることが出来なくなりそうで…それが獄寺は怖くて。


それで彼はある決意をした。


「………言うんだ。今日で…別れましょうって。オレなんて忘れて…新しい恋人を作って下さいって」


本当はひとりになるのは…怖いけど。それでも彼はそう決意した。

それはリボーンが健康体であると信じての想い。仮にリボーンがそれを言われたとして、決して頷くはずのない言葉。


「あ、でも…もうとっくに作ってたらどうしような…うう、少しショックかも知れない…」


けれど何も知らない、何も知らされてない獄寺がそれを分かるはずもなく、自分の言葉が受け入れられると…自分の言葉が伝えられると信じて、彼は恋人の到来を待っている。


「…リボーンさん…まだかな…」


獄寺の意識が段々遠のいてくる。

それでもまだ、まだと耐える。

恋人である彼に、あと一目会えればいい。あと一言告げれればいい。

それが終われば、死ぬまでずっと眠りに着いたって構わないからと、今だけと耐える。

そんな獄寺の耳に、静かな靴音が響いて入る。

思わず扉の向こうに目をやる獄寺。

ノックもなしに入ってきた影は―――…


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それは果たして、黒い恋人か、白き医者か。

どちらにしろ、彼に訪れるのは悲劇のみ。