獄寺ハヤトの暴走
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ハヤトが夢の中にいる間も、その手の平の温もりは消えることがなくて。
暫くしたのち、ハヤトが薄っすらと意識を取り戻してぼんやりと目を開けたときにも。そこには寝る前と変わらぬ黒いシルエットがあって。
眼鏡がなくても自分が彼を間違えることはない。彼だけは。何があっても。
でも間違えるはずのないその人がいることがハヤトには信じられなかった。だってもうその人は仕事に戻っていると思っていたから。
(リボーン…さん…?なんで…)
思いながら、ハヤトはこれは夢なのだと悟る。こんな都合のいいこと夢でなくてなんであろうというのだろうか。
(でも…夢でも…嬉しい)
ハヤトは彼に想いを寄せていて。でも彼はハヤトの気持ちには振り向かない。…そう、ハヤトは思っていて。
だから夢の中だけでも。振り向かないはずのあの人がここにいてくれることが嬉しくて。それだけで十二分に満足で。
「リボーン、さん…」
「ん?なんだハヤト。起きたのか」
ぼんやりとしている意識。熱い頭と身体。纏まらない思考の中、ハヤトは自分の想いをそのまま伝える。
「…好き、です」
「………」
リボーンが少し驚いた顔をしている。けれどハヤトはそれに気付かぬまま言葉を続ける。
「すき…好きなんです。リボーンさんが…だいすき、なんです…」
「…そうか」
一呼吸置いて、リボーンはオレもだ、とハヤトに告げる。
(…ああ、やっぱりこれは夢なんだ)
だって。あの人がこんなこと言うわけない。だってこの人は自分になんかに興味ないから。
でもそれでも、この人は好きだと言ってくれた。夢の中だけど、自分の事を好いてくれていると。
「ハヤト…ずっと、リボーンさんと離れたくないです。…ずっと…いつまでも…傍にいたいです」
夢を見た。今この場も夢だけど、この夢の前の夢。
…リボーンさんのお嫁さんになってる夢。
自分とリボーンさんは大きな家を買って。そこに住んでる。
そこではいつも。一緒で。
朝起きたらすぐ隣にはリボーンさんがいてくれて。おはようのキスをしてくれる。
ご飯は一緒に食べて。一緒に出掛けて。
…リボーンさんにお弁当を持たせる。前の晩に下拵えをしておいたハヤトの手作り弁当。
まだまだお料理は勉強中だけど…でもリボーンさんはいつも残さず食べてくれて。それが嬉しくて。もっと頑張ろうって。
仕事を終えて帰ってきて。でも帰るのは一人じゃなくて。…すぐ隣に、リボーンさんがいてくれて。
いつまでも一緒。ずっと一緒。眠るときだって同じ布団で。リボーンさんは寝る前にお休みのキスをしてくれて。
…そんな夢を見て。
目が覚めたとき、なんだか切なかった。
とても幸せな夢だったのに、起きたらなんだか悲しくて。
…夢と現実との差があまりにも開きすぎていて、虚しくて。
いつしかハヤトの目には涙が溜まっていた。
「ぅ、…っく、ハヤトは…お仕事以外でもリボーンさんと一緒にいたい…です」
「ハヤト…泣くな」
リボーンはハヤトの流した涙を拭ってくれる。慈しむように、優しく。
「ずっと一緒にいてやるから。だから泣くな」
「リボーンさん…」
その優しい仕草と、言葉に。ハヤトは涙も熱も忘れて微笑む。
ああ、なんて都合のいい夢。なんて幸せな夢。でも…
(たまには…いいですよね。こんな夢を見ても…)
ハヤトは更に笑って。
「…はい。…ありがとう…ございます」
言い終るとハヤトはまた目を瞑る。暫しして静かな寝息が聞こえてきた。…どうやらまた眠りに着いたようだ。
それでもどこか不安げな表情。先程の幸せそうな様子とは一転した夢でも見ているのだろうか。
リボーンはハヤトの手を握ってあげて。そうすると先程までの様子が嘘のようにハヤトの顔が安らかなものに変わる。
その分かりやすすぎる変化に内心リボーンは苦笑しながら。
「…言っただろ。一生面倒見てやるって」
言って聞かせるような口調で囁かれたその言葉。
けれど残念なことに、ハヤトがそれを聞いたのは夢の中でのことだった。
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だけどいつか、起きている時にその言葉を。
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