はじめて、しましょ★ - プロローグ -
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彼女は中学生になりました。

…あの事件(と言うほど大袈裟なものじゃないけど)のあと。彼女は姉と一緒に仕事場に行くことを禁止されました。


危ないから。

また迷子になったらいけないから。


悲しいけど仕方ないことだと、彼女も受け入れました。

でもその代わりに、姉は仕事に行くぎりぎりまで彼女の傍にいてくれて。

仕事が終わるとすぐに帰ってきてくれて。

かえって一緒の時間が増えました。

でも去年…彼女が中学校に上がったその日から、ようやくまた姉と仕事場に訪れることを許されました。

もう大丈夫でしょうということで。

中学生になってから一年ほど経ちましたが、その間に何か問題があったことはありません。

当然です。もう彼女は昔のように分別の付かない子供ではないのですから。


そして、今日。


彼女は姉の忘れ物を届けにテレビ局へ向かってます。

…彼女はつい、きょろきょろとしてしまいます。

―――あの人がいないかと、彼女は探してしまいます。


…あの人。


あの時、彼女を助けてくれた人。

…といっても、彼女はあの人の顔をはっきりとは見てないのですが。

光が眩しくて。まともに目を開けれらてなくて。

恐怖から解放されて。目蓋から涙が止まらなくて。

それに、随分と昔の話だから。彼女はよく覚えていません。

それでも幼心にあの人にまた会いたいと。お礼を言いたいと思い、彼女なりに独自に調べていました。

あの人はスタジオにいたけど、モデルでもタレントでもありませんでした。

分かったのはあの人はスタジオに来ていたトップモデルのマネージャーであるということだけ。

そのモデルさんは既に芸能界を去っていて。マネージャーであるあの人も事務所を辞めていたらしいのです。

彼女が調べて分かったのはそれだけ。それ以上はどうしても分かりませんでした。


―――――でも。


それで諦めきれるかどうかは、また別の問題でした。

だから彼女は、こうしてタレントが訪れる場に来る度に想いを馳せて、探して…そして見つからなくて、項垂れるのでした。


「…はぁ」


今日もいない。いつものように。

いないといっても、彼女はあの人をよく見たわけではないのだからいたとしても分からないのですが。

―――仕方ない、早く姉に忘れ物を届けてしまおう。と彼女は腕時計を見ます。時間が押しています。

いつも通っている道の警備員の人が初めて見る人で、彼女は緊張します。彼女は人見知りが激しいのです。

ぺこりと頭を下げて、足早に通路を通り抜けようとしたら、ここは関係者以外立ち入り禁止だと警備員の人に遮られました。


(…て、一般人だと思われてます!?)


確かに彼女は芸能人ではありません。しかし関係者ではあります。

彼女は必死で説明しました。モデルである姉の忘れ物を届けにきたと。

けれど相手は信じてくれません。似てないとばっさり切り捨てられました。

彼女の素顔は姉と面影があるのですが、実は彼女は勉強のしすぎで分厚い眼鏡をしていたのです。

これでは少し分かりづらいです。しかし彼女には眼鏡を外すという選択肢はありません。眼鏡は身体の一部で付けている自覚がないのです。

彼女は何とか頼み込んで通させてくれるよう頼みますが、しかし相手もこれが仕事と許しません。


どうしようと彼女が困り果てていると…



「そいつはオレの連れだ」



―――――後ろから、そんな声が聞こえてきました。