はじめて、しましょ★ - プロローグ -
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沢田社長は彼女にとんでもないことを言い出しました。
素顔。この姉と比べると申し訳ない(と、彼女が信じ込んでいる)自分の素顔を見せろだなんて!
流石にそれには彼女も抵抗があります。彼女は自分に自信がないのです。
「駄目か?」
と、後ろからリボーンが覗き込みながら聞いてきました。それにより彼女の心が揺れ動きます。
―――先程困っている所を助けて頂きました。そのご恩。今この場で返さないでどうするのだと彼女の中の誰かが囁きます。
そうだその通りだと彼女が同意します。その場の勢いは大切です。
「わ、分かりました。でもあまり見ないで下さいね…?」
そう断りを入れてから、彼女はをおずおずと眼鏡を外しました。
「………っ」
沢田社長が息を呑みます。そしてにやりと笑いました。
「決まり、だね」
「そうだな」
彼女の知らないところで話が進んでいます。一体なんのことでしょうか。
「あの…」
「あ、ごめんね。もう眼鏡してもいいよ」
沢田社長の許可を得て彼女は眼鏡を装着します。眼鏡を掛けてないと落ち着かないのです。
視界がクリアになると、目の前にはさっきよりも上機嫌な沢田社長の姿。…一体何だというのでしょう。
「ねぇキミ。いきなりのことで驚くかもしれないけど―――」
「?はい」
「アイドルになってみない?」
……………。
「えぇぇぇえええええぇぇぇえぇぇえええー!?」
「声がでかい。驚いて声を出すとしてももっと小さく」
リボーンからのいきなりの指導に更に彼女は身を縮こませます。
「あはは。リボーンこの子のマネージャーにでもなるつもり?まぁオレとしては大歓迎だけど」
と言いますか彼女がアイドルになるのは決定なのでしょうか。彼女を置いて話がどんどん進みます。
「ん?アイドルになるの…いや?」
不安そうな顔をしている彼女に気付いた沢田社長が優しく問い掛けます。彼女はぶんぶんと首を振って。
「いいい、いやとかそういうことではなく…!」
あうあうと彼女は戸惑います。だって、だって。彼女は本当に容姿に自信がないのです。
―――けれど確かに、幼き頃はモデルである姉に憧れていつか彼女も芸能界に行くんだと思ったこともありました。
(…そういえば、あの時のあの人)
あの時、幼き頃助けてくれたあの人。
いくら彼女が探しても見つからなくて。もう芸能人にでもならないと見つからないかもと思いもしました。
(……………)
彼女は問答します。芸能界に入れば、あの人は見つかるでしょうか。
少なくとも、その可能性は上がります。
あの日からもう、そのときまで彼女が生きてきた時と同じだけの年月が経ちましたが、それでも、まだ彼女は…
「―――どうしたの?ああ、別に返事は今でなくともー…」
「いえ、あのっ」
彼女は沢田社長の言葉を遮って、そして―――――
ばたん!と大きな音を立てて扉を開けました。
「お姉ちゃん!!」
「あら。遅かったわね、心配してたのよ?今スタッフに探しに行かせようかとー…」
「あのね、あのねお姉ちゃん!!」
「…どうしたの?ちょっと落ち着きなさい。そんな貴方も可愛いけどね」
「あの…ね、あの、あの…!」
彼女は興奮する小さな胸を押さえながら、大きな声で。彼女は大好きなお姉ちゃんに報告しました。
「―――――あのね、ハヤト…アイドルになったの!!!」
―――とまあ、そんなわけで。
彼女の名前は獄寺ハヤト。
14歳の女の子。
この夏、守って下さい箱入り娘系アイドルとして芸能界にデビューしました。
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