はじめて、しましょ★ - 雲雀編 -
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「…あの子がこの道に入ったのって、そんな事情だったの?」

「ん?もっと別な理由があると思ってました?」

「いや…逆に納得した。彼女オーディションに参加するってイメージじゃないし」

「そうだね。…うん、本当いい拾い物した。幸運の神に感謝」


拾い物、の言葉に少し顔をしかめるが沢田は気にした様子もなく続ける。


「それで?彼女とは慣れた?」

「そうだね。ちょっとそそっかしいけど礼儀はしっかりしてるし、いい子だしで特に文句はないよ。ただ…」

「ただ?」

「あの子基本的に人を疑うことを知らないね。この業界でやっていけるか不安」

「あはははは、いや、それはそれでいい味出すから構わないよ」

「あと…」

「ん?なに?」

「ストーカーっての?付け回してる奴がいる」

「へぇ…それは頂けないね」


沢田の笑顔が一瞬だけ消える。次に浮かぶは黒き笑み。


「それはどこまで情報掴んでるの?」

「まだ彼女が世に出て一ヶ月にも満ちてないんだよ?雑誌にすら出てない。精々彼女がこの会社の人間ってことぐらいじゃない?」

「彼女は自宅通いだったよね?送り迎えは任してるけどばれた可能性は?」

「あのね。僕がそんな無様な真似を晒すわけないでしょ?当然撒いてから送り届けているよ」

「そう…でもこれからもそうするわけにもいかないし。…よし、じゃあ予定よりも少し早いけど彼女には会社の寮に入ってもらうか」

「ストーカーへの対処は?」

「それがねー…うーん、どうしようか」

「…キミが不利益に対して迷う?なに、キミ偽者?」

「うわ凄い言われよう…いやね、オレそいつに心当たりあってさ」

「?」

「リボーンからも似たような報告受けててね。たぶんそいつ、彼女のファン第一号」

「ファン…?まぁ過ぎた愛情は捻じ曲がるからね。それで?」

「折角のファン第一号が急に消えたら…悲しむよね。やっぱり」

「ワオ。まさかキミに人間の感情が理解出来ただなんてね。やっぱりキミ偽者なんじゃない?」

「本当凄いこというよね雲雀。オレにそんなこと言うのキミとリボーンぐらいだよ」

「そういえば彼を彼女のマネージャーにしたんだって?いいの?キミの秘書なんでしょ彼」

「いいのいいの。口うるさい奴が消えて清々した。それになんだかんだでリボーンもやる気みたいだし」

「ああ、あれでやる気なの。なんか車での移動中でも彼女を色々扱いてたけど」

「あー、いいの。あいつはそんな奴。誰が泣こうが喚こうが我が道を進む奴なの」

「…まぁいいけど。それで?結論としては彼女は会社の寮に移らせてストーカーへの対処は今のとこ保留ってことでいいの?」

「そうだね。まぁあの子を傷付けないことを第一に。年頃の女の子って複雑だから」

「だったら彼がマネージャーってのが一番不味いんじゃ…」

「―――あーうそうそ!少しぐらい辛いことがあった方が後々のためになるから!大丈夫あの子は強い!多分!」

「………はぁ。じゃ、手続きとかは僕の専門外だから。僕は今まで通り彼女のお抱え運転手ってことでいいんだね?」

「ええ。あとはまぁ、彼女が悪漢にでも襲われたりしたら颯爽と助けて下さい。それぐらいですね」

「分かったよ。じゃあ僕帰るから。あとよろしく」

「はいはいー、お疲れ様でした」


…と、そんな会話をして社長と別れたのが数時間前。

今僕がいるのは会社寮…のある人物の部屋の前。


「はぁ…」


思わず出るはため息一つ。一個で我慢している辺り相当偉い。ああ帰りたい。

僕のところに社長から電話があったのはついさっきのこと。