あいをあなたへ
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あまりにも近過ぎる距離に驚いたのかしら。獄寺くんは見ているこっちが大丈夫かしら?って思うぐらいに慌ててみせて。
「え、え、え…?オレ―――え?」
「獄寺くん、落ち着いて。…ね?」
「は、はい…その、オレ…?」
「獄寺くんね、ずっと寝てたんだよ?」
「きっと疲れてたのね…週末だもの。無理ないわ」
「え?寝て…!?しかもずっとっ!?」
くすくすと思わず二人して笑ってしまう。ころころ表情を変える獄寺くんが面白くて。可愛くて。―――愛おしくて。
必死で謝る獄寺くんをよしよしとなだめていたら、あら。ツナってばやきもちかしら?むっとした顔でわたしを睨んで。
「獄寺くん!起きたのならオレの相手をしてよ!いつまでも母さんの傍にいないで!!」
「は、はい!!」
慌てて急いでツナのところへ移動しようとする獄寺くん。…あ、待って。今は……
急いで移動しようとした獄寺くんの動きが急に止まって。ツナは少し怪訝そうな顔をして。
…ツナには毛布越しで隠れているから分からないかなぁ。
獄寺くんが毛布を取ってそれを確認する。顔が途端に真っ赤になってしまった。
「すすす、すみませんお母様ー!!!」
またも必死で謝ってくる獄寺くん。…そんなに気にすることじゃないのに。
…わたしと獄寺くんの手は、未だ繋がったままだった。
それから獄寺くんはツナと一緒に部屋へ行ってしまった。今日は何の遊びをしているのかしら。
時が過ぎて夕暮れになって。夕食の準備を始めていたら獄寺くんは帰り支度をし始めた。
「…夕飯、食べてけばいいのに」
ツナが獄寺くんを夕食に誘う。もちろんわたしも大歓迎。
「いいえ。そこまで、甘えるわけにもいきませんから」
わたしは甘えてほしいのにな。
………でも。
「…なら仕方ないかな?今度来たときは食べていってね。おばさん腕によりをかけちゃから」
「…絶対だよ?」
わたしが獄寺くん寄りになると、ツナも渋々ながら諦めたみたい。…渋々、だけど。
「はい。…すみません気を使わせてしまって……」
「気にしないで獄寺くん。―――――から」
「はい?」
「また、いらっしゃいね?」
いつでも―――…どんなときだって。
「わたしは獄寺くんを―――待ってるから」
獄寺くんの目が少しだけ見開かれたような気がするのは、わたしの気のせいかしら。
獄寺くんは少しの間固まって。やがてはっとして。
―――走って、行っちゃた。
「…ツナ。わたし今おかしなこと言ったかしら?」
「いや…いつも通りだと思うけど?」
そうよね…
「…ごめん母さん!オレちょっと行ってくる!!」
「あ、ツナ―――」
止める間もなく、ツナは獄寺くんを追い掛けて――
…あの子も、変わったわね。
前はもっと淡白で、人生つまらないって感じだったのに。
獄寺くんのおかげかしら?
あの子が帰ってくるのをのんびりと、空を見上げながら待つ。
―――と。
「あらツナお帰り。…?獄寺くんは?」
暫くして戻ってきた人影はツナ一人だった。…おかしいわね。あの子のことだから獄寺くんを引きずっても連れてくると思ったのに。
「そんなことよりも母さん。オレの質問に答えて」
「………?なに?」
「母さんは獄寺くんのこと、どう思ってるの?」
そのあまりにも素直で、直球で…あからさま過ぎる問いに思わず笑みがこぼれそうになる…けど。
この子はこの子で一生懸命なのだから、笑ったりしたら失礼に当たるわね。だからわたしも真面目に答える。
「そうね…最初は物凄く礼儀正しい子、かな?そしてツナの初めてのお友達」
「………最初は?」
「えぇ。最初は」
「…今は?」
少しむっとした表情でツナは続きを促す。…少し焦らしちゃったかしら?
「そうね…今は―――そう、まるで自分の子供のように」
本当の自分の子供のように。
「お母様って言われるたび、ああ、違った。違うんだって。思わされるけど―――」
でも、また暫くするとまたそうだって思っちゃって。
「本音を言うならもう少し甘えてほしいかな?いつまでも他人行儀で母さん、少し悲しいし」
お土産はいらない。敬語もいらない。もっともっと、寄り掛かってほしい。
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