あいをあなたへ
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「そうね…今は獄寺くんに……」
出来ることなら、お母様じゃなくて。
「―――お母さんって、呼ばれてみたいわね」
……………。
「…なんて、こんな言い方はずるいかしら?―――――獄寺くん?」
「え…っ」
驚いたのはツナ。…ばれてないとでも思ったのかしら?
門柱の影から獄寺くんが気不味そうに出てくる。
「あの…その、いつから…?」
「ツナの「そんなことよりも〜」辺りからかしら。ツナが獄寺くんのことでそんなことを言うとは思わなかったから」
むっと、ツナが呻る。あらあら可愛い。
「でも…わたしは、ツナの問いにわたしなりに、真面目に…答えたつもりよ」
獄寺くんは戸惑ったように俯いてしまう。…迷惑、だったかな。
「ちょっと意見を押し付けすぎちゃったかしら…獄寺くん、ごめんね」
「い、いえ!違うんですお母様…!オレの方こそ…」
謝るわたしに獄寺くんも謝ってくる。それに見かねたのかツナが間に割って入ってきた。
「あーもうもどかしい!二人は何も悪くないんだから謝る必要はどこにもないって!」
「ツナ?」
「じ、10代目?」
「ごめん獄寺くん、やっぱりオレ母さんに話す!母さん、獄寺くんね―――」
「え、わ、待って下さい10代目!」
何かを言おうとするツナに、獄寺くんは服の袖を掴んで抗議。けれどツナは気にせず続ける。
「獄寺くんがさっき逃げたのって、実はね――」
「10代目タンマです!駄目ですってば!」
獄寺くんはさっきよりも強くツナの袖を引っ張って。…獄寺くんがここまでツナに反対するのは珍しい。
「母さんのこと本当の母さんみたいに思えて…」
「10代目―――!」
「思わず、甘えそうになったからなんだって!!」
「―――――」
ツナのその言葉を最後に、辺りは急に静けさを取り戻す。
ツナは滅多に上げない大声に身体が驚いているのか大きな息衝きを繰り返していて。
獄寺くんは顔を真っ赤にさせてどうしていいのか分からないようで。
わたしはというと。
ツナの言葉を理解するのに手一杯で。
えっと、ツナの言うことを纏めると…
「つまり…わたしと獄寺くんは両想いってことで。いいのかしら?」
「な―――んでそういうことになるんだよ!」
「え…?だってわたしは獄寺くんのこと自分の子供のように思ってて、獄寺くんもわたしのことをお母さんだと思ってくれてるんでしょう?両想いじゃない?」
「そうかもしれないけど…その言い方だと、なんかさ」
ツナは何かぶつぶつと呟いている。…思春期の男の子って、難しいわね。
それはまぁ、ともかく。
「獄寺くん」
わたしが獄寺くんを呼ぶと、獄寺くんはびくりと震えてしまって。…そんなに驚かないで?
「わたしのこと…お母さんみたいだって、甘えたいって思ってくれてるって…本当?」
「そ、その…すみませっ」
「謝らないで獄寺くん。わたしはそう思われて本当に本当に―――嬉しいんだから」
「お母様…」
「ね、今から獄寺くんのこと、今まで以上に息子扱いしても…いいかしら?」
「は、はい!オレなんかでよろしければ…!」
「ありがとう、獄寺くん…」
―――いいえ、違うわね。息子扱いなのだから、ここはやっぱり…
「………いえ、隼人」
今更呼び名を変えるなんて、少しだけ恥ずかしいわね。けれど…それよりも嬉しさの方が大きいかも。
「母さんの夕飯。…食べていってくれる?」
獄寺くんは名前を呼ばれるなんて、きっと思ってもみなかったのでしょう。
獄寺くんは予想外の出来事に慌てながら、赤くなりながら、それでもはいと答えてくれて。
その意思が出た途端、獄寺くんはツナに家の中まで引きずられていってしまった。
…この様子だと、獄寺くんきっと今日は帰れないわね。うん、絶対ツナが帰らせない。
わたしはぐっと背伸びをして。落ちていく夕日をその目に収めながら今日の夕飯の追加メニューを考える。
今日はいつもよりも奮発しましょう。今日はわたしの子供が増えた、素敵な日なのだから。
…さぁ、そろそろわたしも戻りましょうか。急に騒がしくなった家の中で何が起こっているのかも気になるし。
そう思って踵を返して、わたしは愛しい子供たちのいる家の中へと戻った。
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何してるの?愛しいわたしの子供たち。
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