あなたのなまえ
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胸の奥の、奥の奥。

そこの更に奥に何かがあって、時折それが痛む。


それはたとえば、ダイナマイトが人に命中したとき。

それはたとえば、ナイフで人を傷付けたとき。

それはたとえば、人を殺したとき。


胸の奥の、奥の奥。

そこの更に奥が、酷く痛む。


これの名を仮に、心と名付けようか。


そこが、酷く痛む。

心にひびが入って。

砕けて。割れて。壊れてしまいそうだ。

まったく。なんて弱いんだオレは。


オレはマフィアで。

人殺しなのに。


誰かを傷付けるたび、人を殺すたびに心が傷付いてどうするんだ。

こんなの誰にも言えるわけない。

だから表面上は笑って。

決してなんでもないように。


大丈夫。

隠し事には慣れている。


そして誰もオレなんかに関心を持たない。

だから大丈夫。

作り笑いの裏影で、心がピシリピシリとひび割れていく。


小さな欠片になって。破片になって落ちていく。

酷く痛むが、決して表には出さないで。


耐え忍んで。


そうしていると、

あなたが、来てくれて。

普段は素っ気無いあなたが、普段は冷たいあなたがオレの傍まで来てくれて。


「あんまり無理すんなよ」


なんて。そんな言葉を言ってくれて。

当たり前のような動作で、オレの頭を撫でて。


たったそれだけで。

たったそれだけで、オレの胸の、奥の奥。

ずっと痛んでいたそこが、嘘のように収まって。

代わりによく分からない、あたたかな何かに満たされて。


気が付けば、目から液体があふれていて。

胸の奥の、奥の奥の傷が、すっかり癒えているのに気付いた。


…ああ、やっぱりあなたには敵わない。


++++++++++

あなたに一生ついていきます。