貴方の為に
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暗い夜に、定期的な電子音が響いてる。

この小さな個室にいるのは、オレと、彼だけ。


―――オレと、獄寺くんだけ。


いつまで経っても彼は無茶することを止めてはくれなくて。

こんな風に、意識不明の重態になることも珍しくはなくて。

…その度に、こうして不安になるオレの心も。少しは察してくれてもいいんじゃないかって思うのに。

さらりと彼の髪を梳く。


―――反応なし。


ふー、とオレは息を吐いて。

他にやることもないので、オレは獄寺くんを観察する。

…身体のあちこちを包帯や絆創膏で包んで。腕には点滴。なんとも痛々しい姿。


どうしてキミはこんなに無茶するのか。


前にキミに、そう聞いたことがある。

そしたらキミは曖昧な顔をして。曖昧な笑顔を浮かべて。

それはよく知ってる顔。キミが困っている顔。

…オレの為に何かをしていて。そしてそれがオレに見つかった時の顔。


――ああ、止めてよ獄寺くん。

オレなんかの為に、何かしないで。

お願いだから―――


髪が梳かれているのに気付いて、オレは目を開ける。

…いつの間にか眠ってしまったようだ。

身動ぎするとすぐに頭の手が離れて。顔を上げると少し困ったように笑うキミが起こしてしまいましたか、なんて言って。


「獄寺くん。もう、身体はいいの?」

「ええ。お蔭様で。……ご迷惑をお掛けしました」


―――そう思うのなら少しは自省してほしいんだけど。


そんな願望を込めて彼を見るが、やはりと言うか、彼は相変わらず困ったように笑っていて。

それは暗に、"ご心配はお掛けしましたが、止めるつもりはありません"と物語っていた。

けれど、だからと言ってオレも引くわけにはいかない。

オレは彼の服の袖をぎゅっと掴んで。


「心配、したんだから…」

「10代目……」


戸惑うような声に、オレは更に言葉を紡ぐ。


「獄寺くんがまた重症を負ったって聞いて。オレはその度に、心臓が止まりそうになるんだ」

「………」


困っている獄寺くん。けれど止めない。止めてあげない。オレはいつもそう思っているのだから。

オレは彼を抱きしめて。


「獄寺くん、もうどこにも行かないで。ずっとオレの傍にいて。オレを安心させてよ」


とくんとくんと聞こえてくる鼓動。温かい体温。それを感じて、オレはようやく安心出来る。

オレに抱きしめられたまま、オレに身を預けたまま、獄寺くんは語る。


「……10代目。ご心配をお掛けしたことは、謝りますけど。でも…」


獄寺くんは言葉を選ぶように。慎重に言葉を紡ぐ。


「―――オレは、この生き方を変えるつもりはありません」


ああ、そうだろうとも。オレの知ってる獄寺くんは、誠実なようで実はとても我侭で。オレの言うことなんてちっとも聞いてはくれなくて。


「……でも」


でも。知ってるよ。獄寺くんは、我侭で自己中心的で。けれど、誰よりもオレのことを想っているから。


「どんな危険な場所に行こうとも。どれほど怪我を負おうとも」


その結果、今回みたいに意識不明の重症になろうとも。それでもキミは。


「オレは必ず、貴方のところへ帰ってきます」


それは誓い。オレとキミだけの、二人だけの誓い。


「………それで、許して下さい」


―――許さないと言っても、意見を変えないくせに。


そう皮肉気に言おうと思ったら、既にキミは寝入っていて。

オレは獄寺くんを起こさないように、また彼をベッドへと寝かし付けた。

とりあえず、彼の怪我がある程度治るまではここに閉じ込めておけるけど。

それでも。彼はすぐにここを出て、飛び去っていくのだろう。

だって。オレはそんな彼が好きになったのだから。

明日になったら他のメンバーが押し寄せてくるだろうから。精々、今だけは彼を独占しようと思い。

そして、どうしたら彼の危険を減らせるのだろうかと朝日が昇るまで思案していた。

彼の綺麗な髪を梳いながら。ずっと。ずっと。


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朝日さん、今日はゆっくり登ってきても大丈夫ですよ。