あれから…
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「彼、目が覚めたって」


その言葉を聞いてオレは立ち上がる。彼が誰を指すのかなんて問うまでもないし。彼が目を覚ましたのなら会いに行かない理由もない。

けれど目の前の発言者は、雲雀は道を開けない。


「どいてよ」

「どいてもいいけど、これは無駄な徒労を省いてあげるための僕なりの優しさなんだよ。今彼のところに行っても、彼には会えないし」

「はあ…?」


オレは雲雀を睨み付ける。オレが、このオレが彼に会えない理由があるものか。

雲雀は降参するように両手を挙げ、(10年で丸くなりすぎだろ、この人)説明する。


「彼、起きたはいいけど病気にかかったらしいから」

「病気!?」


オレの血の気が引く。病気。どんな病気だろうか。重いのだろうか。とにかく、何が何でも治さなければ。


「今すぐ医療班を―――」

「その辺のくだりはもう終わってるから」


終わってるらしかった。

手際がいいのは結構なことだが彼のことでオレに事後報告とはいかがなものか。彼のことで。特に彼のことで。


「だってみんな彼の方が大事なんだもの。キミよりもね」


そうか…

しかもみんなか。みんなときたか。

もう彼がボンゴレを総ていいと思う。というか、多分今そんな感じだ。

と、雲雀が踵を返す。


「どこ行くの」

「彼のところ」


あっさりと言ってのけやがったこの野郎。


「何でオレが行けないのにお前が行けるんだよ」


あ、お前とか言っちゃった。でも雲雀は別に気にしてないみたいだ。


「だって彼、病気と言っても軽い風邪みたいだし」

「だったらオレも!!」

「彼が嫌がってるんだよ。キミに来られるの」


ガーン!!


雲雀の言葉がぐっさりと胸に突き刺さる。嫌がられている。オレが。彼に。そのダメージのでかさと言ったら、もう。


「…一応言っておくけど、正確にはキミに病気を移すのを嫌がってるんだからね?」


雲雀にフォローされた。どれだけオレは絶望しきった顔をしてるんだ。

雲雀は少し気まずそうに(本当にどれだけ丸くなったんだ)退室し、オレはひとり泣いた。

ああ…会いたいなあ、獄寺くん。



―――時計の音が聞こえる。

カチ、コチ、と。規則正しく、礼儀正しく。一秒につきぴったり一回。

耳に入ってくるままそれを聞いていると、いつの間にか目が開いていた。

…どうやらオレは眠っていたようだな…

目を開けると、点滴が増えているのに気付いた。恐らくは吐き気止めとか熱冷ましとか、そういった薬だろう。錠剤や飲み薬は口に入れたら戻してしまいそうだから。

あー…でも、まだ熱いな……

ぼんやりとそんなことを考えていたら、部屋の扉が開いた。

目線だけ動かして誰が来たのかを確認すれば、雲雀がいた。