漆黒と銀と気狂い
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蛻となった空の部屋。

主のいない室内に影が一つ入ってくる。

影は辺りを見渡して、やがてある一つの物を見つけた。

それはこの部屋の主の部下が消えたとき、その場に置かれていたもので。

消えた部下の数は二人。だからそれの数も二つ。

本当は部下が消える前にも送られてきたらしいのだがそれの姿はない。恐らく本人が持っているのだろう。

影は無造作に置かれているそれの一つを無造作に開いて。中身を確認する。


「………」


ぽいっと、影はそれを捨てた。

そしてここにはもう用はないと言わんばかりに部屋から出る。

あとに残されたのは静寂と捨てられたもの。

それは狂人から想い人への、ダンスパーティの招待状だった。


* * *


場所は移ろいここは血の地獄。

辺りに広がっているのは死と狂気とその元凶。

銀の髪を持つ青年の血液が地に滴り落ち、世界に赤が広がる。

じわりじわりと広がるそれに狂人が口付けを交わす。


それは、とても甘美な味がした。


にやりと笑って。彼はそれをゆっくりと味わって。飲み下した。

もっと味わいたいと思って上着を脱がす。

まっさらな白のシャツに。深紅のコントラストが綺麗だった。

今からこのご馳走にありつけられるのかと思うと涎が止まらない。

頂きますと、東の果ての国で覚えた食事の義をして。

そしてそのまま、美味しそうな美味しそうな血肉にむしゃぶりつこうかとした所で。


―――ダァァアアアアンッ


容赦のない銃弾が彼の身を襲った。

彼は第六感とか動物的本能に近いものでそれからかわす。ちなみに銃弾は地に伏せている彼には当たらなかった。

弾丸を避けた彼は突然の来訪者を睨みつける。いいところを邪魔されて腹が立っているのだろうか。


「あらあらあらあら。…あんたを招待した覚えはないんだけどな…」

「まぁ、そう言うな」


来訪者は硝煙の漂う銃を仕舞う事もなく。

その口元には余裕の笑みでさえも浮かべて。

いけしゃあしゃあと言ってのけた。


「楽しいダンスパーティなんだろ?オレも混ぜろよ」