有りし日の夢と
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……教室だけは、あの屋敷とは繋がらないな。

確かにいつまでも無人な空き部屋なら飽くほどあったけど。こんなに机と椅子が並んでいる部屋はなかった。当たり前だが。

適当に椅子を引いて、座ってうつ伏せる。すぐに睡魔が襲ってきた。

…こうして眠れるということも、あの屋敷とは繋がらないな。あそこで眠るのを許されたのは夜だけだったから。

そんなことを思いつつ、特に抗う理由が見つからなかったのでそのまま眠りに付いた。


身体を揺すられて。意識が浮上する。

…こんなことをするのは誰だ。メイドのサリアか。レイシアか。それとも屋敷の警備をしているアールドか。まさかコックのアマディシス?

……いやいや。待て待て。オレは屋敷を出ていて。ここは日本で。学校で。

一瞬で間違いを正せたとはいえ、あの頃と間違えたのは不覚だ。眠る前に屋敷のことを思い出してたからだろう。

というか、身体が思うように動いてくれない。まだ身体は睡眠を求めているのか、今ここにある意識すら、気を抜くとまた失いそうだ。

誰かは飽きもせず、オレを揺すり続けている。しつこいな。起きてるよ。

そいつはオレに何か語りかけているようで。それは大気の振動で何となく分かるのだが肝心の内容がまったく聞こえない。

内容どころか声すらも聞こえないので、オレはそいつが誰なのかすらも分からなかった。

やがてそいつはオレを起こすのを諦めたのか、肩から手を離した。

そのままそこを後にするのかと思いきや――


―――………


そいつは、いきなりオレの頭を撫で始めて。


………


おいおい、男の頭なんか撫でて楽しいのか?こいつ。

暫く放っておくも、そいつはそれを止めようとはせず。

それが陽気の温かさとリンクして、あまりにも心地良かったから。

…そういえば、撫でられるなんて初めてだとか、そんな感想を抱きながら、オレは再び眠りの中へと意識を落とした。


目を覚ますと、当然のように、そこには誰もおらず。

時間は昼時なのか、廊下は喧騒で溢れていた。

教室を出てみれば、知った声が聞こえてきて。


「あれ?獄寺くん」

「…10代目。購買ですか?」

「うん。獄寺くんは…サボリ?」

「あはは。つい、うとうととしてしまいました」


笑いかけながら言葉を紡ぐと、10代目は不思議そうにこちらを見ていた。


「…10代目?どうしました?」

「いや…獄寺くん、何かいいことあった?」

「10代目に会えましたよ?」

「―――っ、い、いや、それはそれで嬉しいけど…じゃなくて」

「…あ。そうだ10代目聞いて下さい。実はオレ、ついさっきまで学校ってあんま好きじゃなかったんですが」

「?うん」

「今は、ちょっとだけ好きです」


―――あの屋敷で誰もしてくれなかったこと。

ある日ふと窓の外から見えた、客人の親子がしていたこと。

…母親が、子供の頭を撫でる、ただそれだけのこと。

そんなことすら、オレは体験したことなくて。


だから、今日。


誰だか知らないけど、それをしてくれて、少しだけ……嬉しかった。

なんて。この年齢になってそんなこと言うのは恥ずかしいから絶対誰にも言えないけれど。

とりあえず、気分がいいから今日の午後は予定を変えて授業は出てみようかなんて。そんな珍しいことを思った。


*** おまけ ***

「……あ。10代目。いいことありました」

「え?なに?」

「さっきの教室が滅茶暖かくて。すごいいい気分で寝れたんすよ」

「へぇー…そうなんだ………って、獄寺くん?」

「はい?」

「―――その首…どうしたの?」

「首…?何かおかしな点でも?」

「うん…何か、赤い跡がある」

「?虫にでも刺されましたかね」

「いや……それは」

「はい?」

「いや…何でもない。ところで獄寺くん。寝ているとき、誰か来た?」

「あ。来ましたよ。寝ているオレを起こそうとして。すぐ行っちまいましたから、誰だかは分かりませんでしたけど」

「………へぇ」

「じ、10代目?顔が怖いです…何かオレ、いけないこと言いました?」

「…んーん。全然。ただ、人の物を勝手に使われたことに腹を立てているだけ」

(………人の物?)


それから数日、何故かオレの知り合いが次々と謎の人物に襲われる事になる。


「10代目、何か知ってます?」

「疑われるは罪、だよ」


++++++++++

?そうですね。