明日望み
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それでもオレは、そこから離れなかった。
寒ささえ、あの病室に比べると。まだ生を実感できるから。
…あの部屋に戻るのは嫌だった。あの、平和で安全な部屋は。
ぬるい空気が当たり前になりすぎて。生と死が曖昧になってしまうから。
それが怖いから、あの部屋は好きじゃない。
―――自分が生きてるつもりでも、いつの間にか死んでいても。おかしくない場所だから…
ぎぃっと背後から、そんな鈍い音が聞こえる。
続いてぱさっと。何かが背中から被せられた。そして声が振ってくる。
「…隼人。出かけるときは連絡しろと言ってるだろ」
シャマルだった。
「…悪い」
それはいつものやり取り。変わらないやり取り。
「―――戻るぞ。…お前の身体に障る」
「…ああ」
こうして戻るのも。いつものやり取り。
戻るとき。オレの身体は疲れて動けないからシャマルがおぶる。
温かい体温。微かに聞こえる鼓動。感じるのは安堵感。
…言えない。
この感覚が恋しいから、オレは毎日のように身体に鞭打って屋上に来ているだなんて。
シャマルの背の温もりを感じていると、どうしても部屋に戻る前に眠ってしまう。
そんなわけで、気が付くとオレはいつもこの病室にいて。
…まるで、ずっとずっと朝から寝ていて。…今までのは、全部夢だったんじゃないかって。思えるほどで。
そんなことを思っていると、時は既に夕刻で。
この時間帯になると、ああ、聞こえる。それは生命の音。
たたたたたっと、駆ける音。…一応病院では走ってはいけない。
そう思って。病室のドアを見ていると。
「―――獄寺くん!!」
豪勢、という言葉がピッタリだと思えるような。そんな風にドアを開けて。人が入ってきた。
…思わず笑みが零れる。正直、嬉しいとも思う。
「…また、来たんだ」
「そりゃ来るよ毎日だって来るよ!他でもない獄寺くんのためだもの!」
「ありがとな」
笑って返すと、笑って返される。
それはとてもとても。幸せな時間。
こいつと知り合ったのは、いつの時だっただろうか。
知り合ってから、こいつは本当に毎日のように来てくれて。
面会時間ぎりぎりまで、話をしてくれて。
…それは本当に、幸せな時間。
時間が来て。名残惜しそうにあいつは帰る。
そうすると、今度は食事の時間。…ただの一度も、食べ切れた試しはないけれど。
食事が終わったら。今度は薬を飲んで。また、検査して。
それでオレの一日はおしまい。辺りは真っ暗で。オレが眠ればまた朝が来る。
…日の出ている間、あれだけオレは寝ていたというのに。夜になってもオレの身体は睡眠を欲するようで。
―――あぁ、嫌だ。眠りたくなんてない。
寝たら。もう起きれるか自信がない。それは怖い。それが怖い。
なのに目蓋が…重い。開けてはいられない。気を抜くと閉じてしまう。
ああ、どうか、どうか。お願いだから、どうか。
明日もまた―――生きていますように。
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その次の日も、ずっと、ずっと―――
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