ある日の並盛 夢編
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獄寺が町を行く当てもなくふらふらしていると、何やら破壊音が聞こえてきた。
「…なんだ?」
獄寺がその方向へと歩いていくと、既に人だかりが出来ていて。
「………?」
獄寺が近付くと、騒ぎの元凶であろう人物の声が聞こえてきた。
「極限ー!!」
「………」
獄寺の脳内に、一人の人物が瞬時にピックアップされた。
その人物とは自分とそれなりの関係ではあったが、騒ぎに巻き込まれるのはごめんと獄寺はその騒ぎから離脱する。
(一体何やってんだ、あいつ…)
獄寺は内心そう愚痴りつつ、マンションの壁に寄り掛かった。
……と、人だかりの中から事の元凶――笹川了平が現れて、近くにあった植木鉢を破壊する。
「何、やってんだあいつ――」
今度は獄寺は実際に口に出した。いつもの、獄寺の知っている彼はそんな事はしない…はず。
周りの人間は了平を遠回りに見るだけで、何もしなかった。そりゃ、警察でもないのに危ない目に遭いたくはないだろう。
けれど奇異の視線は嫌でもしてしまう。しかし彼はそれを気にせず、ただただ植木鉢破壊騒動を繰り返していた。
――不意に、了平と獄寺の視線が合った。何故か焦る了平。
そこに突然突風が吹き荒れた。思わず目を瞑る獄寺。
―――その獄寺の、丁度真上で。
窓際に飾り付けられていた小さな植木鉢が、強風に揺れて揺れて……落ちた。
何十階という高さから落下してくるそれに、獄寺は気付かない。周りの人間も強風で手一杯。
気付いたのはただ一人―――――笹川了平だった。
「タコヘッドー!!」
了平は叫んで、獄寺の元へと走った。何事かと薄っすらと目を開ける獄寺に飛び込んできたのは、物凄い形相で走ってくる了平。
咄嗟の事で、獄寺は思わず身が固まってしまった。了平は獄寺を覆い被さる形で抱きついた。
―――――ガシャンッ!!
植木鉢が、了平の頭に激突した。植木鉢は無残に散り、了平の頭は皮膚が切れて血が流れ出ていた。
「………芝生?」
そう言う獄寺の声が弱々しい。未だ状況に着いて行けていないようだ。
「…タコヘッド、無事か?」
血塗れの顔で、了平が聞いてくる。獄寺は無言でこくりと頷いた。
「なら、良い」
そう言って、了平は力尽きたように倒れた。今更のように通行人の悲鳴が獄寺の鼓膜を刺激する。
とにかく医者をと、獄寺は了平の血で濡れた携帯を取り出した―――
「………ったく、出血量の割りには対したことなかったな」
「心配したか?タコヘッド」
「誰がするか!ただ、庇われて死なれるのが嫌なだけだ!」
ぷいっと視線を背ける獄寺。その頬が赤みさしているのは、夕日のせいだけではないだろう。
「…それにしても、何であんな事してたんだ?」
あんな事というのは、もちろん植木鉢破壊騒動だ。いつもの彼と行動差がありすぎる。
「…それに、オレに植木鉢が降ってくるのも。何で分かったんだ?」
ちらりと、獄寺は視線を了平の頭に向ける。白い包帯が巻かれていた。獄寺を庇った結果だった。
了平は事も無げに答える。
「ああ、夢をな。見たんだ」
「はぁ?」
思わず呆気に取られる獄寺。間抜けな声を上げてしまう。
「タコヘッドの頭に植木鉢が当たって。そのままお前が死ぬ夢だ」
縁起でもなかった。それだけを聞いたのなら鼻で笑ったであろうが、獄寺の頭上にはつい数時間前に植木鉢が降ってきたのだ。
「朝からずっとその夢が離れなかった。だからオレは―――」
「町中の植木鉢をぶっ壊して行ったってわけかぁ?…よくやる」
本当に呆れたように獄寺は言う。けど、了平の表情はあくまで朗らかだ。
「しかし。実際にお前に植木鉢は降ってきた。もしかしたら死んでいたかもしれん」
獄寺に否定は出来なかった。あの時。了平が倒れた時。一瞬だが、獄寺は了平が死んだかと思ったのだから。
自分に当たって、それで彼と同じ怪我で済むという保障はどこにもない。
「…それじゃ、お前はオレの命の恩人てわけだ」
「む?オレはそんなつもりじゃ…」
「うるせー、オレの気がすまねぇんだよ。おら芝生、詫びに何か言う事聞いてやるよ一つだけ」
「……………そうか?それじゃあ」
後日。ツナの誘いを断ってまで休日に笹川了平と動物園、水族館、遊園地とデートコースを回る獄寺氏が目撃された。
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義理と人情堅い獄寺くん。
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