ある日の並盛 夢編
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雨が、降っていた。ぽつぽつと。

朝からずっと曇ってはいたけれど、それが雨粒となって降るかどうかは天気予報でも分からなくて。

だから。出掛ける人間は傘を持っていくか少し判断に迷っていただろう。そして傘を持っていかなかった人間は今頃なんであの時…と後悔しているだろう。

そんな中。独り歩く人間が一人。

黒の蝙蝠傘を差して。学ランを羽織って歩く、人間がひとり。

彼は行く当てもなく彷徨っているのか、足取りはゆっくりと。

けれど目的はあるのか、その視線に迷いはなく。

やがて。雨で濡れている壁に身を預けている人影が視界に映った。


「…雲雀?」


人影が彼に気付き、名を呼ぶ。けれど雲雀と呼ばれたその人物は不機嫌そうな顔を返しただけだった。

雨がしとしとと降っていて。この季節に傘も差さずに壁にもたれかかっていれば、自然と体力も消耗していくだろうに。

けれどその事を全く気にしていないような彼に、雲雀は酷く気を損ねた。

パチン、と。雲雀は指を鳴らして。

するとどこからともかく、体格の良い数人の風紀委員が現れた。

突然の出来事に呆気に取られる彼―――獄寺を、雲雀は全く気にせず。


「彼をどこか安全な所へ。怪我してるから、荒っぽい真似しちゃ駄目だよ」


そう、命令して。

雲雀の命を遂行しようとする風紀委員。驚く獄寺。それは統一された彼らの動きではなく。


「な、んでてめぇがんなことを…って、離しやがれ!!」


運ばれていく獄寺を雲雀は見向きもせず。ただ一点を睨みつけていた。


「…降りてきたら?僕が咬み殺してあげるからさ」


暫しの沈黙―――そして。


「何故、分かった?」


黒スーツの男が数人出てきて。一目で、彼らが一般人などでないと分かる。


「分からなかったよ。キミたちが本当にそこにいるなんて。思いもよならなかった。ただ、僕はキミたちがそこにいることを知ってた」

「………?」


訳が分からない、そんな風な男たちに、雲雀は面倒臭そうな視線を向けて。


「分からなくてもいいよ。僕だってこんなの信じたくないし。…でも」


突然の突風。雲雀の持っていた蝙蝠傘が飛ばされる。男たちの意識は一瞬それに持っていかれる。

その一瞬の隙を突いて。雲雀は隠し持ってたトンファーで先制攻撃を仕掛けた。


「でも、何故だか知らないけど。彼がキミたちに殺される夢見ちゃったからね」


その小さな呟きは。誰にも理解される事無く。


「彼を殺すのは、僕なのに」


その小さな囁きは。誰にも聞こえる事無く。


「だから。キミたちは邪魔。だから―――」


男たちは鉄の塊を高速で吐き出す殺人道具を取り出して。全く、この国の警備はどうなっているのか。

一般人ならその黒光りする、ドラマや映画でしか見れないような凶器に。思わず息を呑んでしまいそうなのに。

それでも彼は、雲雀は。まるで怯む事無く彼らに宣言した。


「―――死んでね?」


楽しそうに、笑いながら。


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それはそれは、楽しそうに。