無害な吸血鬼リボーンさんサイド
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………と、

獄寺がオレの服の袖を握り締めた。顔は俯いている。

獄寺の頭に手を置くと、獄寺は身体を震わせた。

獄寺がオレに抱きつく。そして大声で泣いた。

まるで生まれたばかりの赤ん坊がするような、産声のような泣き声だった。


++++++++++

すれ違ってたリボ獄が向き合った瞬間。



それから、暫くが過ぎた。

以前までの生活が戻りつつあった。


まず、骸は雲雀が引き受けてくれた。

しかし、代わりの条件としてオレと勝負をしろとせがんできた。

正直、気が進まなかった。

オレは雲雀を友人だと思っている。それに雲雀はオレに色んなものを与えてくれた。

オレが吸血鬼であるということ。オレの名前。それに外に出るきっかけ。それは、言うならば獄寺と出会ったきっかけだ。

考えれば考えるほどオレには雲雀と戦う理由がない。オレの拳は友人を殴るためにあるのではない。


「骸が来たとき、その子がまた狙われるよきっと。今度は手遅れになるかもよ」

「しかし…」

「あ、リボーンさん」

「なんだ」

「そういえばオレ、雲雀に殺されかけました」

「………なに?」

「雲雀に血を飲ませろってせがまれて、断ったら無理やり一口飲まれて…そしたら全部飲ませろって……」

「ほお…」


オレは雲雀と殴り合いの喧嘩した。オレの拳は家族を守るためにある。


オレと獄寺は9代目の孫が帰るまで屋敷で世話になった。獄寺はよく9代目の孫と遊んでいた。

帰るとき、獄寺にオレが外で何をしているのかと聞かれた。そういえば教えてなかった。

お前のために仕事をしているんだ、と答えれば獄寺はどういうわけだかショックを受けていた。不思議だ。

獄寺はオレが稼いだ金をオレに使ってほしいと言ったが、別にオレには必要ないものだ。

そう告げると今度はオレのためになにか出来ないかと聞かれた。

別にないんだが。元気でいてくれればそれでいいんだが。

そう言おうかと思ったが、言う直前で、思い出した。

丸一日寝ているのはおかしいと。そう言っていた子供の声。

オレも一日に8時間と言われているのに、獄寺は30時間は寝ている。

確かに異常と呼ばれるものなのかも知れない。

異常なのは別にいいが、確か、寝過ぎは身体に悪いらしい。

オレは獄寺にもう少し起きてるよう言って、獄寺は了承した。

次の日、いつものように仕事に行こうと通路を歩いていると獄寺と出くわした。どうやら起きれたらしい。


「起きたのか。獄寺」

「はい。おはようございます、リボーンさん」

「ああ、おはよう」


そう言うだけで獄寺は幸せそうに微笑む。何がこいつをそうさせているのだろうか。


「…オレは、ちゃんと起きれましたか?」

「ああ。上出来だ」


言って、獄寺の頭に手を載せる。よく街で見かける光景だ。


「これからお仕事ですか?」

「そうだ」


二人で門の前まで歩く。どうやら獄寺は見送りをしてくれるようだ。

獄寺を置いて外に出ると、獄寺が思い出したかのように声を掛けてきた。


「リボーンさん」


どうした。と心で言って、ああ、またやってしまったと気付く。

どうにもオレは獄寺の前では心の中で返答してしまうことが多く、言葉には出さない。

獄寺には心が読めないのだからオレの心中など分かるはずないのに何度もそうしてしまう。

オレは駄目だな。

獄寺はそんなオレにすっかり慣れてしまったようで、気にせず言葉の続きを言う。


「…いってらっしゃい」


それは、見送りの挨拶。

家族がよく行っている、日常的な風景。

けれどその言葉とは裏腹に、獄寺は少し怯えているようにも見えた。

ならば安心させなければならない。それがオレの役目だ。


「ああ。行ってくる」


一言そういえば、獄寺の身体の強張りが解ける。

うむ。よかった。

オレは身を翻し、仕事に出かける。

潮の香りが身を包む。そうだ、ここは海が近いんだった。


「ああ、そうだ、獄寺」

「はい?」


そういえば、オレは獄寺と一緒に出掛けたこともなかったな。

今度、9代目に休みをずらしてもらおう。獄寺と一緒に出掛けよう。

最初に行く場所は、行きたい場所はもう決まっている。


「今度、一緒に海を見に行こう」


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その返答は、満面の笑み。