無害な吸血鬼リボーンさんサイド
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それからオレは雲雀と別れて旅をした。

道を歩き、林を歩き、森を歩いた。

道には植物が生え、林には虫がいて、森には動物が顔を出していた。

オレはそれらを見ながら歩き続けた。疲れも眠気も感じなかったので朝も昼も夜も歩き続けた。

そうしていると、街を見つけた。街には人間が暮らしていた。

街に着く少し前、オレはうっかり心を塞ぎ忘れていて大変な目にあった。街中の人々の心の声が一斉に入ってきてうるさいことこの上なかった。

しかし、それにしても本当に心を読めるのはオレだけなのか。

それは少しばかり衝撃的だった。例えて言うなら自分以外の奴が生まれたときからみんながみんな一つ目だとか、一つ腕だった。ぐらい衝撃的だった。

それはともかくオレは心を塞ぎ、せっかくなので街中にも入った。何故か周りにじろじろと見られた。奇異の視線だった。

気にせず、オレは街とそこに住む人間を観察した。露天商ではアクセサリーや軽食が売られ、広場では若い女たちが様々なことを話していた。

宿の近くを寄れば客引き、路地裏では喧嘩、学校では幼子が笑いながら何かを話していた。

店の前ではオレも客引きにあったが、食事も休息も必要ないオレには意味のないものであったし、何よりオレは金を持っていなかった。

暫くして、オレは街を出た。街はうるさくて、苦手だ。


それからもオレは旅を続けた。行き着く場所は海であったり、山であったり。また街であったり、小さな村であったりだ。

自然の場所では波のせせらぎを聞いたり、巨大樹を見たりして心を落ち着かせた。

街や村では、同じ人間なのに考え方や物事の捉え方がまるで違い、驚かされた。

そんな日々が続いた。朝も昼も夜も。春も夏も秋も冬も。雨の日も晴れの日も雪の日も。オレは旅を続けた。気が付けば数百年ほど経っていた。


そんな、ある日のことだった。

その日は雨が降っていた。


オレが歩いていると、倒れている馬車を見つけた。中を見てみると死体が三つ。それと腹に木片を突き刺され、血を流している子供がひとり。


「お前、名前は?」


どういうわけか、オレはそいつに声を掛けていた。今まで話しかけられて言い返すことはあっても、自分から話しかけるのは初めてのことだった。

そいつは濁った目をゆっくりとオレに向けてきた。生気が失われたものの、死にゆくものの目だ。唇がゆっくりと動く。


「…獄寺……」


獄寺。それがこいつの名前らしい。


「そうか。獄寺。お前、どうしたい?」


オレはさらにこいつに、獄寺に話しかけていた。

自分でもどうしてそんなことをしたのか分からない。

けれど口に出してしまった言葉は取り消せない。こうなったら獄寺が言ったことは叶えるしかないな。オレに出来ることなら。

獄寺は暫くオレをじっと見ていた。降ってくる雨が獄寺の目に落ち、涙のように流れた。

そして。


「…海が…みたい……」(…家族が…ほしい……)


二重の声が聞こえた。

口に出していった言葉と、心が出していった言葉。

海。そして家族か。

何とかオレに叶えられそうな願いでよかった。


「分かった」


オレはそう言うと、獄寺に腕を伸ばす。

そして、その経験は初めてだったというのにも関わらずオレはまるで呼吸をするように当たり前に、当然のように獄寺の首筋に牙を突き立てた。

初めて口にした血の味は、甘く、芳醇で、美味かった。

なるほど。確かにオレは、雲雀の言うとおり吸血鬼なのかもしれない。

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獄寺くんとの出会い。