無害な吸血鬼リボーンさんサイド
6ページ/全10ページ
獄寺はそれから一週間眠り続けた。
オレは獄寺をあの城まで連れて帰った。獄寺を拾った場所と城の場所が近かったからだ。
城の近くにはいつの間にか街が出来ていた。人間と言うのはこうして領土を増やしていくのか、と感心した。
獄寺が起きたら、まずは海を見に行こうと思った。これまた幸いなことに丁度城の近くに海がある。
そして、獄寺が起きる。
獄寺は目を開き、身を起こし、オレを見て…笑って。こう言った。
「おはようございますリボーンさん。なにかオレに出来ることはありますか?」
おや。と思った。なにかも何も。出来ることも何も。海はどうしたのだ。
どうやら獄寺は、あの日のこと…いや、あの日以前のことを忘れてしまったらしい。
どうしたものか、とオレは思い悩んだ。そうしている間にも獄寺はキラキラとした眼差しで、期待を込める目付きでオレを見ている。オレの指示を待っているのだ。
とはいえ、特にしてほしいことなどありはしない。しかしそう言うと恐らく獄寺は傷つくだろう。それは避けなければならない。
暫く考えて、オレは「じゃあ、掃除」と言った。それ以外思いつかなかった。
しかし言った後、家族に掃除を押し付けるのは果たしていいのだろうか。という疑問に突き当たった。
オレは獄寺に掃除をやめさせようと思ったが、獄寺は嬉々として掃除をしていたのでやめるにやめさせられなかった。
その後、掃除を終わらせた獄寺がまた同じ質問をしにオレのところに来た。オレは特にないと正直に言ったが、やはり獄寺は納得いかないようだった。
何でもいい、どんな些細なことでもいいと獄寺が必死に言う。
獄寺を見ながら考えるうち、視界に入った獄寺の首筋。思い出す獄寺の血の味。
あの味を思い出して、オレは思わず口に出していた。
「嫌なら構わないんだが、お前の血を飲んでもいいか?」
獄寺はもちろんと言って、嬉々として身を差し出した。
オレは獄寺の血を吸った。
美味かった。美味かったが、血を吸いすぎたのか獄寺は倒れてしまった。
獄寺はまた一週間眠った。
起きると獄寺はまた掃除を始めた。無理はしなくていいと言ったが、獄寺は笑って大丈夫と言うだけだった。
獄寺は一度寝ると丸一日は起きなかった。オレは寝ないからよく分からず、初めはそれが普通なのかと思った。
獄寺はオレと同じく、本来ならば何も食べなくとも平気のようだった。
しかしオレが血を吸うと当然その分身体は消耗する。それを回復させるためには血肉を作る、つまりは食事が必要なのだろうと思った。
しかし困った。オレには金がない。
一応近くに食べれる植物や木の実がないこともないのだが、それにも限度があるし、何よりそれでは冬に何も食べれなくなる。
オレは近くの街に行ってみることにした。人間というものは、身体の大きなものが小さなもののために働きに出るという。オレもそれにあやかろうと思った。
街に下りた時刻は夜。深夜。誰も起きてなかった。
失敗したか、と思った矢先、何かが視界に入った。まず老人。そしてその老人を睨み付ける男。手には確か銃、と呼ばれる武器が収められている。
ふむ。
オレは二人のところまで歩いていった。
その間に老人が男に気付き、男は何かを喚き散らしながら老人の前に現れる。銃を突きつける。
そこでオレは二人の間に割って入り、男から銃を取り上げ握り潰した。とりあえず、これは危ないだろう。
男がオレを見て悲鳴を上げる。…しまった。悲鳴を上げるほど大事なものだったのか。これは。
オレは銃を直そうとしながら二人を見遣る。
取り乱す男と冷静に事の成り行きを見ている老人。頼るなら誰だって老人を選ぶだろう。
「すまないが、助けてくれないか?」
銃を何とか元の形に戻そうとしながらそう言うと、老人は目を丸くした。
「命の恩人に助けてくれと言われたら、助けるしかないでしょうな」
オレは命の恩人だったのか。
そのことに驚きつつ、多少歪ながらも元通りにした銃を男に返そうかと思ったが、男はどこにもいなかった。
++++++++++
リボーンさんは超絶天然ボケ。
次
前
戻