仔犬獄寺くんと飼い主少年リボーンさん
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それは夕暮れ。
そこは黄昏。
赤い景色。
辺りには誰もいない。
自分の頭を撫でてくれた人が、自分をここに置いてどこかへ行ってしまった。
待っていれば、きっと来てくれると。
ここにいれば、きっと戻ってくれると。
そう思ったのに。
そう信じたのに。
夜になっても、朝になっても。
もう誰もやってこなかった。
捨てられたのだと、気付くのに時間がかかった。
…気付きたくなんて、なかった。
それからは否応なしに一匹の暮らしが始まった。
時折また人間に拾われることもあったけど。
一度捨てられた時の不安からうまく馴染めなくて。
すぐにまた捨てられた。
…人間なんて嫌いだ。
自分の都合で拾って、自分の都合で捨てる。
自分の気まぐれで可愛がって、自分の気まぐれで傷つける。
嫌いだ。大嫌いだ。
ずっと野良で生きてやる。
そう、決めたけど。
世の中というのは、なかなかに厳しくて。
あっという間に弱って、死を待つだけになった。
人間の子供に追いかけられ、石を投げられ。
雨に打たれ、体温を奪われ。
逃げるように、這うように。路地の裏へ辿り着いた。
寂しくて、悲しくて。
知れず、口からか細い鳴き声が漏れていた。
誰にも聞こえないような、そんな小さな声。
意識を失う直前、身体が暖かな何かに包まれたような、そんな気がした。
目が覚めると、どこかの家の中だった。
自分はタオルに包まれ、雨を吸っていた毛並みも乾いていた。
「起きたか?」
声が、した。
聞きなれぬ声が。
見れば、人間の子供が自分を見ていた。
「食うか?」
子供が湯気の立つ皿を目の前に置く。
美味しそうな匂い。
食べたいけど、身体がうまく動かない。
それに気付いたのか、子供がスプーンで皿の中身をすくって、口元まで持ってきてくれた。
ゆっくりと、食べる。
夢中になって、食べる。
食べ終わると眠くなって、そのまま意識を落とす。
…その時、頭を誰かに撫でられる感触がして。
その心地よさに、安心した。
目を、開ける。
………。
夢を…見ていた。
リボーンさんに拾われた時の夢。
懐かしいな……
「獄寺?起きたのか?」
…リボーンさん?
リボーンさんの声が間近で聞こえた。
よく見れば、身体が揺れている。
…リボーンさんに、抱きかかえられている。
「全く、心配かけやがって」
リボーンさんが苦笑している。
はて、心配とな。なんのことだろう。
「お前、朝になっても全然動かなくて。具合悪そうだったから医者に診てもらってたんだぞ」
なんと。マジですか。
「ただの食べ過ぎだと。…ま、病気とかじゃなくてよかったが」
…ああ、昨日の晩御飯が美味しかったもので、つい。
………。
リボーンさん。
あなたに拾われて、よかった。
あなたと出会えて、よかった。
あなたと過ごす日々は、毎日が宝物です。
あなたとずっと、いつまでも。
一緒に居られますように。
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それだけが、オレの願いです。
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