獄寺くんの長い長い病欠
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果たして、これは一体どういうことだろう…?

獄寺は回転数のよくない頭で考える。

オレは風邪を引いた。

うん。その通りだ。

そしてその旨を10代目に伝えた。

うん。間違いない。


そのあと、前に連絡が付かなかったということで、そのとき怒られた奴らにも連絡を入れた。

うん。何もおかしくはない。


今日は平日。

今はお昼時。


オレは風邪で学校を休んだからマンションにいる。

……なのに。


「獄寺くん。大丈夫?こんなに大勢で気分悪くない?」

「獄寺、お前飯食ってるか?最近痩せてないか?」

「ああ、それは思うね。きちんと栄養を取ってないから風邪も引くんだよ?分かってる?」

「極限だ!風邪など気合で吹き飛ばせタコヘッド!!」

「またまたお兄さん冗談きついんだからー!やっぱこういうときは手厚く看病でしょ!!ね、獄ちゃん」

「手厚く看病か…えーと、日本じゃネギで首を絞めるんだっけか?」

「ディーノ兄。それ普通に死ぬから」


男七人に囲まれて、獄寺は回転数のよくない頭で考える。

果たして、これは一体どういうことだろう?

二度目の思考に突入しかけた獄寺を止めたのは、身体の変化。


「………っ!!」


今まで予想だにしなかった出来事に身体も驚いていたが、次第にそれも解かれてやがて衝動が復活する。


「タコヘッド?」


不審に思った了平が、一歩獄寺に近付く。


「寄るな!!」


獄寺は怯えたように大声を出し、自分を押さえつけるように腕で身体を抱きしめる。

その変わりように、みんなも驚いた。


「ご…」


ツナが名前を呼ぼうとするが…


「ダメ…です。オレに、近付かないで下さい……」


それすら遮って、獄寺は悲痛な声でそう訴える。

そんな獄寺に、誰もが抱きしめてあげたいと思い、そして拒絶に恐怖した。

何も出来ないもどかしさ。代わってあげたい苦しみ。それをみんなが味わっていると、


「なんだおめーら。辛気くせーな」


獄寺のすぐ近く、触れるか触れないかの距離に、リボーンが降ってきた。


「…っ!?リボーン、さん…」


獄寺は突然の来訪者に、思わず手が伸びそうになる。しかし、それを何とか押さえた。


「だめ、です…。オレから、離れて……下さい」


必死に耐える獄寺。しかしリボーンは獄寺から離れようとはしなかった。


「そう、押さえるな」

「!?」


リボーンの全てを分かっているような、そんな口調に獄寺の動きが一瞬止まる。


「お前の衝動のことは知っている」

「知っているのなら、なおさら…離れて……くだ、さい」


もう獄寺に自分を押さえる力はあまり残っていないように見える。その手は大きく震え、その目には大粒の涙がたまっていた。


「…ねぇリボーン。衝動って…?」


空気に呑まれていたツナだったが、やがて自分を取り戻しリボーンに質問する。


「ああ。獄寺はな、屋敷にいた頃から風邪を引くと―――」

「っ………もぉ、だめ……です。リボーンさん、失礼します!!」


リボーンの説明が終わる前に、獄寺は自分を縛っていた腕を伸ばした。それは真っ直ぐにリボーンに伸びていって―――


「って、獄寺くん!!?」


驚くツナたちを尻目に、リボーンは自分に起きていることをまるで気にせず説明を続けた。


「風邪を引くと―――無性に人肌か恋しくなるらしい」


にやり。と、リボーンは笑いながら説明を終えた。

その小さな身体を、獄寺に抱きしめられながら。


……みんなの視線を感じる。

ああ、こんな情けない姿、誰にも見られたくなかったのに。

一体オレはいくつだ?それ以前に、オレはマフィアなのに。

あまりにも自分が不甲斐なくて、思わず涙が零れる。畜生、止まれ。

そうしている間にも、リボーンさんを抱きしめている腕の力が強まる。

リボーンさんは迷惑だろうに何の抵抗も見せない。リボーンさんほどの腕ならオレの手を振り払うくらい簡単だろうに。

そう思っていると。


「………リボーン」


10代目の、声。

目を開けると、少し怒った様子の10代目が一歩こちらに近付いていた。

……ああ、これを機にオレはボンゴレを抜けさせられるのだろうか。

こんな情けない部下など、10代目もいらないだろう。

オレはそれを覚悟したが、10代目はオレの予想だにしなかった言葉を述べた。


「オレと代わって!!」

「………え?」