獄寺くんの長い長い病欠
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オレの口から、思わず変な声が出た。

そしてそれを境に、他のみんなの時間も動き出す。


「いや小僧。オレと代わってくれ。礼ははずむ」

「なんだキミが近付くなって言う理由はそんなことだったの?……だったら無理矢理にでもキミを押し倒したのに」

「タコヘッド!その…なんだ。オレの胸で泣け!!」

「獄ちゃん可愛い!!オレと付き合ってくんないっ!?」

「……やべ。スモーキン、マジでキャッバローネにこねぇ?」

「うわー。ハヤト兄、今ランキングしたらいろんな順位がすごいことになってるよー」

「え……え?」


思いもよらない事態に、獄寺は目を丸くする。


「みんなお前の魅力にクラクラだな」

「……もう、冗談はよして下さいよリボーンさん」


きゅっと、唇を尖らせながら少し拗ねたように獄寺は言う。

……その殺人的な可愛さに、気付いてないのは本人ばかり。


暫くして獄寺はようやくリボーンを解放した。


「ん?なんだもういいのか獄寺」

「は、はい…ご迷惑をお掛けして……その」


恥ずかしそうに、獄寺は謝罪の言葉を述べる。


「気にするな」


優しいリボーンの台詞に獄寺の顔は一瞬かぁっと赤くなる。


「え…その……」

「お前のいつもより少し温かい体温も、少し速い鼓動も、首筋に当たる吐息まで全てオレのものだったからな。まだ抱きしめてていいぞ」

「……!も、もぉ…リボーンさん!!」


どうやら冗談だと思った獄寺。本気だとは露知らず。


「ご、獄寺くん……」


静かに手を上げて、ツナは己の存在を主張した。もしかしなくても忘れられてる。


「!!は、はい、なんでしょう10代目」


やはり忘れていたらしい獄寺。それに気付かないふりをしてツナは言う。


「その…発作っていうか衝動…?は、もういいの?」

「だ、大丈夫です!はい!!」


そういう獄寺は前よりも確かに落ち着いているように見える。しかし……


「本当に……?無理してない?」

「し、してません!大丈夫です!!」


そんな獄寺になおも食い下がろうとするツナ。そこに


「んんっ!?」


「獄寺…風邪を引いたらいつでも言えよ……オレが温めてやるから」


いつの間に近付いたのか、山本が獄寺をオブラートに包み込んでいた。


「や…山本っ!?馬鹿、離れろ!風邪が移るだろ!」

「獄寺の風邪なら本望だ…」

「馬鹿言ってんじゃねぇー!」


じたばたと暴れる獄寺。しかし体格差や体力のこともあり、それはまるで抵抗になっていない。

それどころかやはりまだ身体は人肌を求めているのか、その大きな身体を"抱きしめたい"という衝動に獄寺は駆られていた。


(そ…それだけは……っ)


必死に山本と衝動に抵抗する獄寺。しかし無情にも、身体に力が入らなくなっていく。


(このままじゃ…)


どうしよう、どうすると考えていたそのとき

ふっと、目の前の山本の姿が消えた。それに続いて黒い学ランが視界を横切る。そして抱きしめられた―――雲雀に。


「―――な…え?ひ、雲雀…?」


獄寺が見上げると、そこにはトンファーを持った雲雀がいた。どうやら山本を吹っ飛ばしたらしい。

獄寺は自分の身に何が起きているのか分かっていない。ただ呆然と雲雀を見上げていた。

そんな獄寺を見て、雲雀は珍しくくすりと笑って…


「大丈夫?」


なんて。もしかしたらもう一生聞けないような、そんな優しい台詞を言ってきた。

かっとなって。離れようとして。獄寺はようやく気付いた。

雲雀に抱きしめられてるその身体もまた、雲雀を抱きしめていることに。


「―――――!!!」


慌てて腕を放して離れようとするが、無論雲雀にその気はない。


「まだ人肌が恋しいんじゃない?遠慮しないで僕に身を預けていいんだよ?」


言って、雲雀は獄寺を抱きしめる力を強める。

獄寺はその布越しに届いてくる温もりに誘惑されるが、何とか堪えた。腕を前に持ってきて押し出すように抵抗するが、まるで意味がない。


「なにそれ?抵抗してるつもり?」


雲雀のからかうような言葉に頬を赤らめつつ、獄寺は周りに助けを求めるような視線を送る。無意識に。


「その辺にしておけ」


助け舟を出したのは了平だった。了平は獄寺から雲雀を力ずくで引っぺがす。