獄寺くんの長い長い病欠
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「無事か?」
確かめるように了平は聞いてくる。いつものように荒々しいのだが、そこには気遣うような丁寧さがあった。
「…平気だ。……………心配、掛けたな」
最後のは聞こえないようなくらい小声だったが、了平には聞こえていた。途端にかっと、燃えるように了平の顔が赤くなる。
「ななななな、なにを言っているお前らしくない。いつものように怒鳴って見せろ、タコヘッド!」
いつもとまるで違う獄寺を見て、了平は困惑気味に言った。それがおかしいのか獄寺は、
「…変なの」
そう言って、了平に微笑んだ。熱に少し浮かされたそれは艶っぽくて…
「ご…っ」
「獄ちゃんかわいー!!!!」
思わず抱きしめてしまいそうになった了平を押し退けて、ロンシャンが獄寺を抱きしめた。勢い余って押し倒してしまう。
「……ロンシャン、痛い…離せ」
「あははははっめんごめんご!あまりにも獄ちゃんが可愛かったからさ〜☆」
謝るロンシャンだが、離す気は毛頭ないようで、ますます獄寺を抱きしめる力を強めた。
ふと、ロンシャンの手が獄寺のうなじをかする。獄寺の身体がびくっと震えた。
「あれ?獄ちゃんって首筋弱い?」
「な…馬鹿言ってんじゃねぇ!早く退け!!」
口調はいつも通りに戻ってきたが、その顔は真っ赤で、まったく怖くない。ロンシャンの心に悪戯心が芽生える。
「そんな怖い声出さないでさ〜☆もっと可愛い声出してよ」
ロンシャンの手がまたうなじに戻ってくる。今度は確かめるように、探るように手を這わせていった。
「ば…っやめ……んん」
獄寺の身体がびくびくと跳ねる。
「ほらやっぱり。獄ちゃんって首筋弱いんだ。……可愛いね」
くすくすとロンシャンは笑う。その手がさり気なく下に伸びていき―――
「……そこまでだ。トマゾ八代目」
きゅっと、ロンシャンの首にディーノの鞭が回り込んだ。ロンシャンの動きが止まる。
「………んもー!冗談だってディーノ先輩☆ちょと悪戯が過ぎたかもだけどさ〜」
ロンシャンはおどけて獄寺から手を離した。ディーノはゆっくりと鞭を外す。
「大丈夫か?スモーキン」
「大丈夫ー?」
ディーノは獄寺のところへと赴く。一緒にふぅ太も。
と、ディーノの足が何もないのに滑って…
「わ!」
「え?」
「あ」
ごっちーん!
ディーノの額と獄寺の額とがぶつかった。痛そうな音が響く。
「ってぇ〜」
「……それはこっちの台詞だ!何しやがる!!」
「ハヤト兄、落ち着いて」
「これが落ち着いていられるか!お前ら、いい加減に……」
―――ふらり。
獄寺の身体が、倒れる。
床に倒れる直前、獄寺を支えたのは…
「大丈夫?獄寺くん」
「じゅう…だいめ……」
ツナだった。獄寺は慌ててツナから離れようとするが、またもやふらついてしまう。
「も、申し訳ありません…迷惑を……」
「迷惑じゃないけど…無理はしないでね」
言って、ツナはその手を獄寺の額に当てた。ひやりとした指先が気持ちいい。
「ん……」
「大丈夫?さっき凄い音したけど」
ツナの顔が近くなる。獄寺が直視出来ないほど、近く。
「10…代目?」
なんだか様子がおかしいツナに、獄寺が不審がる。
―――と、いきなりツナが獄寺に雪崩れかかってきた。
「じゅ、10代目っ!?大丈夫ですかっ!?どうしましたか!?」
ツナは目を回したような表情で、気を失っていた。その顔は真っ赤だ。
「これは……」
「本領発揮だな、獄寺」
「リボーンさん」
いつの間にか、リボーンが獄寺の肩に乗っかっていた。そのことは特に追求せずに、獄寺は別のことをリボーンに訊ねる。
「あの、本領発揮というは……」
「なんだお前知らないのか。お前の風邪は他人に移りやすいことで有名なんだぞ。獄寺家の最終兵器とまで言われてたな」
…そういえば昔、風邪を引くと治る頃、いつも心配した姉貴や使用人たちが寝込んでいたような…
「……え…じゃあ……」
獄寺は、一つの可能性に思い当たってしまった。
さっきから、やけに静かだ。
一度、誰かに邪魔されたくらいで傍観を決め込むような奴ではないあの山本や雲雀でさえ。
自分を入れて総勢九人もいるこの空間に、あまりにも静か過ぎる、この現実。
獄寺は恐る恐る振り返る。ゆっくりと。
そして、そこに広がっていた風景は―――
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