第三者目線
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彼の目線の先にいるのがあいつだと気付いたのは、どれだけの年月が経ってからだっただろうか。

初めはその意味が分からなかった。


その意味が分かるまで、更に長い年月を必要とした。

けれど、分かったところでオレにどうすることも出来なかった。


というか、絶対無理だと思った。

諦めた方がいいと。


だって、あいつは彼に見向きもしていない。

あいつはまったく彼に興味を持っていない。


まったくの無関心。


だから、彼の願いは叶わないと思った。

だけど、彼は諦めなかった。


いくらあいつに冷たくされても、無碍に扱われても、ずっと笑顔を向けていた。

オレから見れば、それは痛々しいだけだったけど。


あいつと会うたび、彼の心は磨耗していったように思える。


あいつの言葉はいちいちナイフのように鋭くて。それでいて反論のしようもないほど正しかった。

彼はその言葉を全て、無防備に受け止めていたように見えた。

避けるなり防ぐなり、彼ならどうとでも出来ただろうに一番きつい受け止め方をしていた。


駄目なのに。


言葉のナイフは見えない凶器。

刺されば当然痛いのに。

見えないからって、傷が出来ないわけないのに。

見えないナイフに刺されたら、見えない傷が出来て。そこから見えない血がだらだらと出てしまうのに。


見えないから、手当ても出来ないのに。

見えないから、誰も心配出来ないのに。


なのに彼はずっと見えないナイフを受け続けて、見えない血を流し続けた。


痛くて。

苦しくて。

辛かっただろうに。


だけど彼はいつも笑っていた。


だからオレは大丈夫なんて思ってしまったのだろうか。

そんなわけないのに。

痩せ我慢に決まっているのに。

彼の笑顔が、あまりにもいつも通りだったから、平気なのだと決め付けて。


彼は傷を負い続けた。

彼は血を流し続けた。


慣れることなんて、きっと出来てなかった。

そんなときだった。


あいつが死んだのは。