第三者目線
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外傷はなかった。
まるで眠っているようだった。
だけどその身体は冷たくて。
あいつの心臓は止まっていた。
呪いが身体を内側から蝕んで、それで死んだのだとあいつの仲間が教えてくれた。
あいつがそんな状態なのだと、全然知らなかった。
あいつが死ぬなんて、誰もが思わなかったからそれはもう周りに衝撃が走った。
しかし、こう言ってはなんだがオレは少しだけ安堵していた気持ちもあった。
勘違いしないでほしい。
オレはあいつを嫌っていたわけではない。
あいつはオレの先生だ。あいつなしに今のオレは語れないし、あいつには感謝していることもたくさんある。
ただ、もう彼が、これ以上傷付かないで済むのだという気持ちがあったことも確かだった。
もう彼は傷付かない。
見えない血を流さない。
そのことを、オレは喜んでいた。
そしてあいつのいない生活が始まった。
不思議なものだった。
あいつが死んだという気が、いなくなったという気がしない。
それはあいつの死体があまりにも綺麗だったからだろうか。
せめてあいつが凄惨な血の海に沈んでいたら、オレたちもあいつの死をあっさりと受け入れられたのだろうか。
まるであいつが長期の出張に行ってしまったかのような気分だった。
時が来れば、そのうちいつかひょっこり帰ってくるだろうという思いさえあった。
それは、彼があまりにもいつも通りだったからということも関係しているだろう。
彼だけあいつの死を知らないというわけではない。
むしろ、あいつの死体を発見したのは彼だ。
通路に座り込んで、俯いているあいつに気付いて。近付き声を掛けたのは他でもない彼だ。
なのに、その彼がいつも通り。
不思議な空間だった。
明らかに一人欠けたというのに、見えないだけでまだいるように感じられた。
きっと事が急すぎて、誰もが着いていけてないのだと思った。
起こりえないと信じていた事が起きて、理解と納得に時間が掛かるのだと思った。
時間が経てば、自然とみんなあいつの死を受け入れるだろうと思った。オレも含めて。
それは恐らく正しかった。
たった一つだけのことを除いて。
オレたちの中で、彼一人だけが、あいつの死を理解していたということを除いて。
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