縁の下の苦労持ち
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…うわ。
リボーンさんがリボーンさんを殺してる…
なんという光景。リボーンさんも自分を殺すのに躊躇とかないのだろうか。
銃弾が尽きる頃、もうひとりのリボーンさんは消えてなくなった。霧のように消えてしまった。血痕すらも残らない。
「…死んだん…ですか?それとも逃げられた…?」
「あいつはそういう奴じゃない。だが…まあ、もう現れないだろう」
リボーンさんはあのリボーンさんになにか心当たりでもあるのだろうか。
「あいつはアルコバレーノの呪いだ」
「呪い…!?呪いはもう解けたんじゃ…」
「だから、その残滓みたいなもんだ。他の奴らにも似たような奴らが現れてたらしい」
…だからマーモンいなかったのか……
「ったく…何なんだ一体。コロネロんとこの奴はラルにちょっかい出してたって言うし、風んとこの奴は手合わせしたらしいし」
「………」
自身に関心のあるものに近付くのだろうか。だとすると…もうひとりのリボーンさんがオレに近付いたのは…それにあの台詞は…
「…ん?獄寺、怪我してるのか?」
「え?ええ、リボーンさんほどではないですが…」
オレの手からは血が流れていた。はて、どうしてオレは手なんて怪我しているのだっけ。
確か…ポケットから手を出そうとして痛みが走ったような。
オレはポケットの中を見てみた。
そこにはナイフが一つ。
…つい先日、リボーンさんが拾ってくれたナイフ。
「…これで切っただけみたいですね。すみません、ナイフを無造作にポケットに入れてたばかりに……」
「そのナイフはいつも懐に入れてた奴だな。落としたのを拾ってポケットに入れてたのか?まったく…」
…ん?
呆れたようにそう言うリボーンさんに、オレが覚えるのは違和感。
だってこのナイフはリボーンさんが拾って下さって。リボーンさんの前でポケットに入れたのに。
なのにまるで今初めて知ったかのような台詞…ん?待て待て待て。
今目の前にいるリボーンさんが知らなくて、でもあの出来事が本当にあったとするならば…
ナイフを拾ったのは…あの日会ったのはもしかしてもうひとりのリボーンさんの方か!?
しかし何故そんなことを…と思うオレの傍ら、リボーンさんがハンカチを取り出してオレの手当てをしてくれていた。
「ってリボーンさん!オレよりもご自身の手当てを!!明らかにリボーンさんの方が重症です!!」
未だにリボーンさんの肩からは血がだくだくと出ている。リボーンさんは煩わしそうな顔を作った。
「ああ、いいんだ別に。見た目はあれだがそんなに酷い怪我じゃない」
「で、ですが…しかしリボーンさんほどの方にそこまで怪我を負わせるなんて……」
流石はもうひとりのリボーンさん。残滓であれアルコバレーノの呪いということか。
「…お前も体験しただろ。あいつと向き合うと動けなくなる。…血を流せば解けるみたいだがな」
なるほど。確かにオレも思うところがある。動けぬ身体。しかし痛みと共にそれは解けた。
ポケットにナイフを入れてて助かった…って、ん?でもナイフをポケットに入れたのはもうひとりのリボーンさんがオレのナイフを拾ったからで…そのことはあのリボーンさんも知っていて。
ああもう、全ては仕組まれていたんじゃないかと疑ってしまう。あのナイフすら実は落としたんじゃなくてリボーンさんがオレからすって何食わぬ顔で返してきたんじゃないのかなんて思ってしまう。
そうまでして。そこまで回りくどいことをしてあのリボーンさんがしたかったこと…
と、頬に何かが触れる。白いハンカチ。リボーンさんがハンカチを持ってオレの頬を拭っている。
「…り、リボーンさん。そこは別になんともありませんが……」
そう言うもリボーンさんはその手を緩めない。いや、むしろ強くなってる。
その場所はもうひとりのリボーンさんが最後オレに触れたところだ。その場所をリボーンさんが執拗に拭う。
………。
うーむ。これは…よもや、まさか……いやいや、でも…
オレの頭の中を色んな推測が横切る。もうひとりのリボーンさんの言葉も。
―――悪いな、獄寺。
だが…まあ、勘弁してくれ。お前だってあいつの恋を応援してくれるだろ?
あいつは本当に自分の気持ちに鈍いからな。周りの思いには鋭いのにそれに比例して自分の気持ちがまるで分かってない。
あいつを、よろしく頼む。
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