ツナ父奮闘記
ツナ父奮闘記
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追いかける二人の耳に、前方から雲雀先輩と愛しの獄寺くんの声が聞こえます。
「雲雀…本当に、もう……大丈夫だから…」
「ふーん?じゃあ抵抗してごらん?僕の手から離れられたら開放してあげるよ」
「………ん……んぅ」
獄寺くんは必死に雲雀先輩から離れようとしますが、その動きは緩慢で、見ていてとても危なっかしいです。
「ほら、抵抗らしい抵抗も出来ていない。キミは全然大丈夫じゃないんだよ」
まさか本当に獄寺くんは検査が必要な状態なのでしょうか?雲雀先輩はそれを見抜いていたのでしょうか?
ツナがそう思ったときです。
「だから……まぁ、応接間でゆっくりしていきなよ。………一生」
なんとなんと、雲雀先輩は獄寺くんにプロポーズしてしまいました。
父親とライバルの目の前で、いい度胸しています。
でも、シチュエーションを考えるのなら弱まっているところを助けられ、お姫様抱っこをされています。
そんなときに真面目な顔で言われたら、少しは鈍い女の子だってドキッとしてしまいそうです。
そして、ここでもし獄寺くんが首を縦に振ったら後ろにいるライバルを散らし、さらに父親も少しは落ちやすくなります。
なかなかの策略家です。でも雲雀先輩には一つだけ計算違いがありました。それは……
「……やー…応接間って学校の備品だし…それに、雲雀だってオレなんかの世話、大変だろ……?」
それは獄寺くんが少しどころではなく、物凄く鈍い、ということです。
「………冗談だよ。そんな真面目に回答しなくとも…」
いつもの雲雀先輩の口調です。でもちょっと残念そうです。
―――と、ここで獄寺くんの目線が高くなりました。
「こら。怪我人病人は保健室だって、相場で決まってるだろーが」
獄寺くんをお姫様抱っこのまま雲雀先輩から奪ったのは、保健医のシャマル先生です。
保健医ですが、診るのは女の子だけです。っていうか、むしろ獄寺くんのみを診ます。
獄寺くんと昔からの知り合いで、何かと昔の獄寺くんの話をしてはツナを始めみんなを煽っています。悪い大人です。
「……シャマル…」
獄寺くんはうわ言のように、シャマル先生を見上げて言います。
「オレ、大丈夫だから……」
「ん…」
シャマル先生はいきなり獄寺くんに自分のおでこをくっつけます。
どうやら熱を測っているらしいですが、はた目にはキスしているように見えなくもありません。
獄寺くんはまるで無抵抗です。お父さんはハラハラです。
「ふむ。確かに熱はないようだな」
たっぷりと時間をかけて獄寺くんの体温を堪能したシャマル先生はそう言いました。
でも別に熱を測る必要性は、実はどこにもありません。
でも獄寺くんはそんなことに気付きません。
「うん……だから………」
「でも体調は悪そうだ。このまま保健室へ直行するぞ」
シャマル先生は獄寺くんの意見を無視して、保健室まで運んでいきました。
「ほら、大人しく寝ていろ」
ツナと雲雀先輩を撒いたシャマル先生は、保健室に着くと獄寺くんをベッドに寝かしつけました。
「いや…だからオレは本当に大丈夫だから……」
獄寺くんは武くんに吹き飛ばされて前後不覚な状態に陥っていましたが、そんなものは時間の経過と共に治っていきます。
獄寺くんはもう本当に大丈夫になったので、正直にシャマル先生にそう告げました。
けれども、自分のテリトリーに愛しの獄寺くんがいるというこの状況。
そう安々と手放す気はありません。
「分かった分かった。じゃあ検査だけな」
言って、シャマル先生は聴診器を当てる仕草をしました。
獄寺くんはまぁ自分健康だし、検査もすぐ終わるだろうと深く考えず、制服のリボンに手を伸ばしました。
一方その頃。
「どうして保健室の場所知らないんですかっ!見回りも風紀委員の仕事でしょ!!」
「そんなこと言ったって知らないものは仕方ないだろう!?キミこそ知らないのかい!?」
獄寺くんを見失ったツナと雲雀先輩はお互いに責任のなすり付けをしていました。醜いです。
武くんはいません。教室にツナと獄寺くんが遅れる旨を担任の先生に伝えるためです。
本当は元凶の彼がいると腹が立つという理由で二人で追い出しました。
二人は途方に暮れていました。大変です。このままだと愛しの獄寺くんがヤブ医者野郎に喰われてしまいます。
二人が獄寺くんの貞操(とシャマル先生の命)を諦めかけたそのとき、廊下の角を一人の生徒が横切りました。
その生徒もまた獄寺くんを狙う人なのですが、背に腹はかえられません。
「あのっ」
「ちょっと」
もしもの可能性に賭けて、二人はその生徒に声を掛けました。
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