ツナ父奮闘記

ツナ父奮闘記
6ページ/全6ページ


ツナが愛しの獄寺くんから子羊の皮を被った狼を力ずくで引っぺがそうと決意したときでした。


「獄寺」


声が聞こえました。まだまだ子供の声です。


「リボーンさん」


獄寺くんが声の主の名前を言いました。敬語です。

リボーンと言われたのはまだまだ幼い子供でした。赤ん坊といってもいいかもしれません。可愛いです。

でもただ可愛いだけではありません。なんとリボーンは殺し屋なのです。そして何でも出来ます。凄いです。

リボーンは獄寺くんからふぅ太に目を向け直します。そして言いました。


「離れろ」


短いそれはちゃんとふぅ太に伝わったようです。ふぅ太は素直に下がりました。ツナのときとは大違いです。

リボーンは離れたふぅ太に用はないと言わんばかりに獄寺の前に立ちました。まるでナイト様です。

そしてまた短く言いました。


「帰るぞ」


帰り道、長い影が帰路を覆っていました。影の数は三つ。

ツナと、獄寺くんと、そしてリボーンでした。

みんな無言でした。空気が重いです。

長い長い沈黙の中、リボーンが口を開きました。


「……獄寺を守るんじゃなかったのか?」


その一言に、ツナの身体がびくんと震えます。痛々しいです。


「……それは…その」

「お前が獄寺を守るといったから、オレはお前に獄寺を預けたのに……」


静かな声。その声には失望が入り混じっていました。


「やはりお前には獄寺は重すぎたな。獄寺はオレが……」

「リボーンさん」


今まで黙っていた獄寺くんが、リボーンの台詞を遮って言葉を放ちました。


「………なんだ」

「お言葉ですが、10代目はちゃんとオレを守ってくれていますよ」


そう言ったときの獄寺くんの表情はとても穏やかで…とても幸せそうでした。


「山本に少し激しい挨拶をされてよろけたとき、心配してくれました」


獄寺くんは一つ一つ、今日の出来事を話していきます。


「シャマルに保健室に連れて来られたとき、抱きしめてくれました」


それはまるで大切な宝物のように、かけがえのない幸福のように。


「ランボに過去について追及されていたとき………守ってくれました」


一つ一つ、とても大事そうに話していきました。


「10代目は、オレのことをちゃんと守ってくれているんですよ。リボーンさん」

「………そうか」


分かれ道を前にして、リボーンの足が止まります。後姿のままで言いました。


「……ここで獄寺を連れて帰ろうと思ったんだがな…獄寺に免じて、今回は勘弁しといてやる」

「リボーン…」

「勘違いするな。今度オレが来たとき、また獄寺を守りきれていないようだったらそのときは連れて帰る。文句は言わせねえ」

「……分かってるよ。もう大丈夫。獄寺くんはオレが守る」


リボーンはツナの答えに納得したのかは分かりませんでしたが、振り向きもせずに行ってしましました。

ツナと獄寺くんはリボーンが見えなくなるまで見送っていました。

やがてリボーンの姿が完全に見えなくなります。空も暗くなりかけていました。


「獄寺くん、帰ろっか」

「はい。10代目」


二人はリボーンが行った道とは違う道に足を向けて帰っていきました。


―――――その途中。


「……獄寺くん」


ツナが獄寺くんを呼び止めます。心なしか、少し緊張しているようです。


「はい?」


獄寺くんは素直に振り向きます。ツナは前々から聞きたかったことを訊ねました。


「獄寺くんは、さ…好きな人って、いるの?」

「いますよ」


さらりと獄寺くんは答えます。お父さんびっくりです。

でも獄寺くんもお年頃です。好きな人ぐらいいてもおかしくありません。


「……そっか。でもオレ、多分その人に獄寺くんを渡すことなんて出来ないと思う。……獄寺くんを、束縛しちゃうと思うんだ」


お父さんなかなかの問題発言です。でもお父さんは独占欲が強いので仕方がないのかもしれません。


「だから……その人と一緒にいたいのなら、その人の所か、リボーンの所に行った方がいい。……リボーンなら、きっと最後には認めてるれるだろうから」


リボーンと離れてからずっと考えていたのでしょうか。でも、それはお父さんとしてはかなり苦渋の選択のはずです。

けれど、愛しの娘の幸せを思うのならなんのそのです。


「……10代目。オレはどこにも行きませんよ」


ぎゅっと、獄寺くんはツナと手を繋ぎました。


「オレが好きなのは…その、10代目ですので……」


獄寺くん、こちらも負けず劣らずの問題発言です。

獄寺くんの顔は俯いていて見えませんが、とりあえず耳は真っ赤です。かなり照れています。


「獄寺くん……」


ぎゅっと、ツナは獄寺くんを抱きしめます。


「ありがとう…嬉しいよ。オレ……もう、絶対離さないから」


夕暮れの帰り道、二人分の一つの影が帰っていきます。

影は寄り添うように、そのまま姿を消しました。

いつまでも、離れることなく。


++++++++++

その影は暖かな家の中まで途切れることはなく。