二人の関係
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強いて言うなら、知人。

顔見知りのレベルはとっくに超えたが、友達などという仲良しこよしの類ではなく。

好敵手にしては実力の差があり、けれどまったく相手にならない問題外でもない。

同類といえばきっと二人は同時に顔をしかめて否定をし、冗談ではないと不満を漏らす。

そんな二人がどう転んでも恋人…ましてや家族になどとなろうはずもなく。(ファミリーの一員というカテゴリには入るだろうが)


やっぱり二人の関係は知人という形にに落ち着くのであった。


…ちなみに仲間というと片方は「群れるのは嫌い」と憮然に言い放ち、もう片方は「誰があんな奴!」と露骨に嫌な顔をする。

そんな知人な二人は決して仲が良いとは断じて言えないが、だからといって絶望的なまでに相性が悪い。というわけでもなく。

よって道すがら擦れ違えば会釈程度はするし、機嫌が良ければ会話だってするだろう。


そんな二人が、ある日ある任務の任命を受けた。


誰がこんな奴と…などという文句はない。決定事項は覆らないし、任務内容が二人に合って組まされたのなら望むところだ。

取り分け特別な感情を持ってない二人は何の贔屓も差別も持たず互いの実力を認識して行動する。ある意味、相手を信頼して信用している。(そして自分の眼鏡を)

最早自分がどう動けば相手がどう動くかなどは分かっている。この辺りは結構、息の合ったコンビ。といえなくともない。それを聞いたら二人は機嫌が悪くなるだろうが。


まぁ、なんにしろ二人が目指す行動は"合理的"だ。

なのでたとえば、どうしても避けられない攻撃が二人に降って掛かったとしたら―――――



「と、いうわけでお前全治三ヶ月。歩くの禁止。煙草も駄目だ」


そう告げた医者が獄寺の手の内に収められてあった煙草を取り上げた。獄寺は非常に不服そうに不満そうにその手を見送る。


「松葉杖使ったら歩いてもいいだろ」

「アホか!お前うっかり足が千切れかけたんだぞ!!もげたら自業自得っつーことでくっつけてやらん!!」


結構本気な声色のシャマルに、獄寺は苦笑して答える。この医者には昔から心配をさせてしまっている。


「退屈だったらそこの棚の中に遊び道具入ってるから、それで遊んどけ」


そう言い捨ててシャマルは室内を後にした。獄寺はその遊び道具とやらを出してみることにする。


「って、対戦ものじゃねぇか!!」


ジーザス。と獄寺は嘆いた。一人で遊べってか。勝負盤を引っくり返すってか!!


「…うるさいよ」


と、現れたのはいつぞやの相方。こんな所にこいつが出現とは珍しい。珍しすぎる。


「なんか、思ったよりは元気そうだね」

「たりめーだばーか。この程度で誰がくたばるか」


その実、病院に運び込まれてから丸三日は生死の境を彷徨っていたりしたのだが黙っておく。


「何の用だ?まさか見舞いか?」

「悪い?」


絶対にそれだけはないだろう、と思いながら言ってみたのにまさかの肯定が返ってきて獄寺は驚いた。「冗談」の一言を待ってみたがやって来なかった。それどころか、


「僕を庇って怪我したんだから、お見舞いくらい来るよ」


などと言われてしまって更にびっくりだ。

雲雀を庇ったのは単に効率の問題だ。この後の敵の始末。地の利との相性。何より攻撃を繰り出した奴との距離とを考えて。


「何か欲しいのあったら買ってくるけど」


どうやらそれで庇った借りが戻ってくるらしい。一瞬「煙草」と言いかけて止めた。シャマルに見つかったら本気で怒られそうだし…何より今非常に自分は退屈なのだ。


「欲しいもん、つーかあれ。雲雀、これ出来るか?」


と言って獄寺はそれまで手に持っていた対戦用遊び道具を上げた。雲雀がそれを視界に入れる。


「チェス?また懐かしいものが出てきたね」


ふっと雲雀が心なしか微笑んだような気がした。もしかしてもしかすると、意外に好きだったりするのだろうか?


「暇なんだ。付き合え」

「じゃ、一回だけね」


そう言って、雲雀は獄寺のベッドの横の椅子に腰掛けた。

顔見知り以上で、けれど友達のカテゴリには入らない二人。

好敵手と言えば首を傾げ、同類と言われると嫌な顔。

特別な感情など持ってないから恋人や家族と呼べる関係には一生ならないだろうけど。


それでも二人は、過去はどうあれ決して相手を嫌っているわけではなかった。


チェスを挟み向かい合う二人は、もしかしたら友人に見えて。

もし今二人がそう言われたなら、嫌な顔はしなくても複雑な顔はしそうではあった。


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「チェックメイト」

「…もう一回」