彼は最後の境界線
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彼がオレを突き飛ばす。銃弾が響いて思わず振り返ると…彼は凶弾に撃たれていた。
撃たれた反動で彼はオレの所へと吹き飛んで。オレは彼を受け止めて。
…彼から、獄寺くんから血が流れて。溢れて。
それはあっという間の出来事。たった一つの銃弾で鉄の鉛で彼は苦しんでいる。呻いている。
少しの油断が死に繋がる。オレはそのことを知っていたはずなのに。…なのに。
ああ、ああ。どうしよう。
彼は息をも絶え絶えになって。
なのに見上げる視線は、オレを。ただオレのみを心配してて。
オレはボスだから。こんな時こそしっかりしなくてはいけないのに。
他の誰でも。そうしてこれたのに。
なのにああ、駄目だ。彼だけは。どうしても。
こんな日が来るって。知ってたはずなのに。
こうなるかもしれないって。覚悟していたはずなのに。
なのにオレはどうしても踏ん切りを付け切れないまま、この日を。この時を迎えてしまって。
消えていってしまう手の中のぬくもり。零れていってしまう命。
ああ、駄目だ。行かないで、行かないで、行かないで。
けれどどれだけ願っても 現実というものは厳しくて。ましてや自分の思い通りになんかならなくて。
人生で一番ではないかってほどに取り乱していると。獄寺くんは震える手でオレの頬に手を添えて。
彼は何かを言おうと口を開くけど、そこから漏れるのはひゅーひゅーとする不規則な呼吸音。
オレは彼に喋っちゃいけないと言わないといけないのに。そうしないと彼の死が早まるだけなのに。なのにオレは、彼を止められなくて。
ごふっと、獄寺くんは血の固まりを吐く。げほげほと咽て、白い肌は更に白く。血の気なく。
ぱくぱくと口を開く獄寺くん。でもそこから言葉は出てこない。
ああ、消えて行く。消えてしまう。獄寺くんが遠い所へ。
「じゅ…だ…」
獄寺くんが小さな声で。か細い声でオレを呼ぶけど。その声すらも溶けて消えてしまう。
獄寺くんはもう声が出ないのだろうか。彼はオレに何かを言うのを諦めて、でもその代わりに…オレにぎゅって。抱き付いて。
それにはもう力はあまり込められてなかったけれど。でもきっと、それは渾身の力を絞り出してのことで。
オレはその華奢な身体をぎゅって抱き締め返す。…獄寺くんが最後に。儚い笑みを浮かべてくれた。
…そして。
オレを抱きしめる獄寺くんの手が、ぱたりと力なく堕ちて。
オレを見てくれていたその目は、何も映さなくなった。
オレの中で、何かが崩れる音がした。
…それから。
綱吉は変わった。
何事にも怯まず。動じず。常に笑っているようになった。
まぁ、"最も大切なもの"を失ったのだから。まさに怖いものなしだろうけれど。
…綱吉は。
まるで死に向かっているようにも見える。
それはまるで自身を破滅させたいような。
それはまるで己を殺したいような。
それはまるで あの子のところにいきたいのかのような。
…僕から見れば、それは愚かしいこと以外なんでもないけど。
あれから。
綱吉は壊れた。
きっとそれは あの子が死んだから。
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3434キリリク「10年後綱獄でツナが狂う話」
ふじこ様へ捧げさせて頂きます。
リクエストありがとうございました。
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