白昼夢
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「別に?…ここで乱闘騒ぎがあったって報告が来たんだけど…それってこいつらとキミなんでしょ?」
少し冷えた声。それはあいつの不機嫌な時の声。
けれどオレはそれに応えない。…今は何も言いたくない気分だ。
そうしているとふわっと、風が吹いた。あいつの気配が消える。オレは考えるよりも前に右に半歩。移動した。
直ぐ横に強い衝撃。風圧で髪がいくつか飛んで消えていった。
…今の。避けなかったらモロに後頭部に喰らったんだろうなぁ…。なんて気分はまるで他人事のように。
「…キミ。今日はいつもと違うね」
声が聞こえたかと思うと、急に顎を掴まれた。強制的に左を向けさせられる。
「まぁ、そんなキミも悪くはないけど。…ねぇ。僕を見てよ」
あいつの顔が凶悪に歪んでる。その長い指は顎を這い上がって血の滴る唇へ。
あいつは何を思ったのかそれともそれに引き寄せられもしたのか。オレの口から煙草を取って。近付いて…傷のあるオレの唇を―――
………ガリッ
思いっきり咬みやがった。
「って、いってぇえええええ!!」
「目、覚めた?」
「…あ?」
気が付いたら、眼前に笑みを浮かべた雲雀の顔。
「やっと僕を見たね」
「は…?何の話…ってなんでこんなに距離が近いんだよ!てかなんだこの手は!!離れろ!!」
「ワオ。その年でもうボケが始まった…?可哀想に、もう数分前のことも覚えてないんだ…」
「本気で同情している風に言うなよ!てか覚えてるわ!」
うろだけど。
どうにも…さっきまでの出来事が客観的にしか思い出せない。だがボケなどではないと断言出来る。…たぶん。
「ていうか…戻っちゃったね」
「あ…?」
「さっきのキミ、なかなか好みだったのに」
「は…!?」
ちょ、こいつ…いきなりなに言ってんだ!?
「ま…少し面白かったから。ここでの件は不問にしてあげるよ。…じゃあね」
そう言って雲雀は、あっという間に離れて…行ってしまった。
…ってちょっと待て。
あの野郎…オレの煙草持って行きやがった。ていうかオレの口端からは奴に容赦なく咬まれたおかげで血がだらだらと出ている。
…ここまでされて、黙りを決めるオレではない。
「のやろ…、わけわかんねーことほざいてんじゃねーよ!待ちやがれ!!」
叫んでオレは雲雀を追い駆けて行く。
……追い駆けた結果は…言いたくはないが。
―――本日は晴天なり。
晴れ続き、暑過ぎて。ああ、いらいらする。
でも今はこの暑さよりもなによりも、あいつに一番腹が立つ!!
++++++++++
ああもう、本当なんなんだよあいつ!!
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