Though I was happy if I did not know it. (…But what expected it oneself)
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「―――実験体」


短く放たれた言葉は不吉なもの。それに覚えるは恐怖。


「じ…っけんたいって。何言ってるんですか。そんなことあるわけ…なにを根拠にそんなことを……」


戸惑いながら、上手く言葉を放せないながらに言うオレにシャマルは無慈悲に、冷たい目で。



「傷」



短く、それはもう短く言い放った。


「き、ず…?」

「隼人の身体には薬物投与のあとがあるって言ったろ。…それ以上に隼人の身体には所狭しと傷があった。―――小さいものから大きなものすらな」



―――――嘘だ。



「しかも、傷の出来具合からして数ヶ月前からのもすらある。…随分と前から隼人は傷ついていたようだ」


そんなの、嘘だ。

だって。彼は、獄寺くんは。

ずっとずっと…そう、ずっと前から元気だったじゃないか。記憶を失っても、それでもいつものように笑っていて。



「ああ、あいつは今痛覚がねぇ。…それに今暑いのか寒いのかすらもわからねぇだろうさ」



「そんな…でも、それなら今までなんで訴えなかったんですか!?記憶がないのなら不安になって訴えるはずでしょう!?」

「記憶がないからこそ、訴えなかったんだ。例え何かがおかしいと思いつつも人間ってのは自分の状態を正常と考える節があるからな」


例え今の自分の状態が異常なのだとしても。おかしいのは周りで、自分こそが正しいと思うのだとシャマルは言う。

…獄寺くんも、その状態だったのだとシャマルは言う。


「―――で、隼人はよくイタリアに戻っていたのか?」

「…それは」


確かに、その頻度はこの数ヶ月でかなり上がっていたけど、でもそれはダイナマイトの補充でって…



「―――そうだな。獄寺はこのところよく任務に借り出されれていだな」



自分の目が見開かれたのが分かった。リボーンの思わぬ言葉に付いていけない。


「…リボーン……?なに、言って…」


知らない。そんなこと知らない。だって聞いていない。


「オレも時折ボンゴレに駆り出されてな。獄寺はオレが来る前から既に戦場に出ていた」

「うそ…」

「嘘じゃねぇよ。獄寺は時には怪我を負って戻るときもあった。…あいつに頼まれて黙っていたがな。しかしもう意味はないだろう」


オレの頭の中にこの数ヶ月間の獄寺くんとの日常が通り過ぎる。

どの獄寺くんも笑っていて。いつも通りで。…とても無理をしているようには見えなくて。



―――なのに、獄寺くんは本当はそんなことになっていただなんて。



「…なるほどな。繋がった。悪かったな無理矢理話させて」

「いや、良いよ。―――ところでスモーキンの治療費はいくらだ?多少は色つけて払うぜ」

「…いらねぇよ」


ディーノさんの言葉に、しかしシャマルは首を振る。


「助けられなかったんだ。だからオレにはそれは受け取れねぇよ」


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―――その言葉の意味を、オレは理解したくなかった。

…けれど。普段は頭の悪い、何の計算も出来ないオレなのに。

こんな時だけ、いやに分かってしまうという悲しさ。