This world is far from you with happiness to laugh.
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シャマルはすぐに来てくれて。

オレは外でじっと待っていて。

…獄寺くんの無事を祈っていて。

暫くして。シャマルが出てきて。

シャマルはオレを見もせずに一言。「行ってやれ」って言って。


「…良いから行け。隼人はお前をご指名だ」


その声にはっとして。オレは病室に入り込んだ。

部屋の中には獄寺くんがいつも通り横になっていて。



オレが近付いて名前を呼ぶと獄寺くんはこちらを見て。ちょっと恥ずかしそうに笑って。



「悪い。ツナ…取り乱ちゃって…」

「ん…いいよ。オレの方が取り乱しちゃったし…」


獄寺くんのすぐ傍に寄って。その手を取る。獄寺くんが少し驚く。



…やっぱり、目が見えないんだ。



「獄寺くん…大丈夫?」


ぽろっと、口から飛び出た言葉。ずっとずっと聞きたかったこと。


「ああ、ちょっと目の前が真っ暗になってる程度で、他は…」



「気分は?」



一度聞きたかったことが言えたなら。あとはまるで滝のように言葉が落ちてくる。


「ツナ…?」

「獄寺くん自分のことどこまで分かってるの?体調は?不安はない?怖い?…オレに出来ることはない?」


驚く獄寺くんを前に落ち着くことも出来ず。オレは次々に質問をぶつけてしまう。



獄寺くんはきょとんとしてて。そして次第に何故か笑って。



「ツナ…ずっとそれが聞きたかったんだな。気を使わせて…悪いな」

「謝らないでよ!!」


そう、謝らないで欲しい。オレに気なんて使わないで欲しい。

だって、獄寺くんが今こんな目にあっているのは。オレのせいなのだから。

オレを鍛えるのか見極めるのか確かめるのかよく分からないけど、オレと仲がいいからってそんな理由で選ばれて。こんな目にあっているのに。

なのにそんなオレに笑顔を見せないで欲しい。責めて欲しい。

オレにはそれぐらいのことしか出来ないから。



なのに獄寺くんはいつだって笑って許す。そう、いつだって。どんなときだって。



「ツナはいつも無理しているみたいだったから。それだけが気がかりだったんだ。…良かった、本音が聞けて」

「ごく、でらくん…」


それからオレは獄寺くんの手を握り締めたままずっとずっと話をしていた。

オレが今までずっと気に掛かっていたことを。聞きたくて。けれど聞けななかったことを。

きっと今日は今までの中で一番話をして。一番無理をしなくて。



そして一番、獄寺くんを見ていた日だった。



いつもの面会時間をかなりオーバーして。シャマルが時間だと告げに来た。

もっともっと獄寺くんと話していたかったけど。けれど無理も言えない。オレは獄寺くんに別れを告げる。



「じゃあね。獄寺くん」



笑って別れを告げる。また明日話をしよう。今日よりも沢山沢山話をしよう。また手を繋いで話をしよう。

手を離すと獄寺くんは少しだけ名残惜しそうにしながら。けれど笑顔を作って。



「…ああ。じゃあな。ツナ」



そう言ってくれて。そしてオレは病室をあとにした。


++++++++++

何故だかこの日は、この日だけは"また明日"と言うのを忘れていた。

まぁ、だからって何がどう変わったって事はなかっただろうけど。

幼いオレは愚かで、なんでシャマルが獄寺くんの容態が変わったあの日に限って面会時間を延ばしたのかなんて全然考えなくて。


そして…


今思えば、あの獄寺くんと会ったのはあれが最後となってしまって。