I pray for your every happiness anytime.
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諦めていた。もう会えないと。

もう二度と…"獄寺くん"に会えないのだと。そう思っていた。

なのに…


「ぇぐ、ふ…ぅえ……」


目から熱いものが零れて。そしてそれが獄寺くんにもかかる。


「…?10代目?―――っ」


ぎゅっと。獄寺くんを抱きしめたら獄寺くんはまたびくりと身を震わせて。


「ぁ、…痛いんだったよね獄寺くん…ごめん」

「いえ……良いんです。…あの、それより…10代目。お怪我は…ないですか?」

「え?」


怪我。誰が?…オレがだろうか。


「何言ってるのさ。オレに怪我なんて…あるわけないじゃない。ぴんぴんしてるよ」

「本当…ですか?」


大丈夫だというオレの言葉を聞きつつも獄寺くんは何度も繰り返す。大丈夫ですか。本当に怪我はないんですか。


「大丈夫って。オレには怪我一つない。…だって」


そう。オレの身に怪我があるはずがない。だって。



「だって。獄寺くんが守ってくれたんだから」



いつだって。どんな時だって。

獄寺くんはオレのその言葉を聞いて。ようやく安心したような様子を見せて。


「………良かった」

「え…?」


良かった。何がだろうか。こんな目にあってまで何に安心したというのか。


「ずっと…ずっと不安だったんです。―――知らないうちに、オレが貴方を傷付けていないかどうかが」


気が付けば獄寺くんの身体は小さく震えていた。


「オレ、…があなたを。最終的にはあなたの成長に繋がるのだとしても。それでも…オレの知らないうちにあなたを傷付けてたらって考えると…怖くて」


…ああ、獄寺くんは知っていたのか。一連の計画を。


「……………」


ほっとしている獄寺くんに、けれどオレは…


「なんで…」

「え?」


思わず口をついて出た言葉に、獄寺くんがこちらを見上げる。それはなんとも無垢な表情で。


「なんで…そんなにも―――オレを思ってくれるのさ」


こんな目にあっているのは、ある意味オレのせいなのに。


「それは…」

「オレが10代目だから?オレが最初獄寺くんを助けたから!?そのせいで獄寺くんは今こんな目にあっているのに!!」


叫ぶオレに、でも獄寺くんは笑ったまま。



「…だって、あなたはオレを…初めて人扱いしてくれた方ですから」



「………え?」


人扱い?だって獄寺くんは人なのだからそう扱うのは当然…って、初めて?


「オレはあなたに会う前までずっと…消耗品のような扱いを受けてきました。そう…ずっと」


獄寺くんはここでない遠くを見ていて。…ずっとずっと遠くを見ていて。


「…獄寺くんっ」


慌てて、オレは名前を呼んで。獄寺くんの意識をこちらへと戻す。


「…あなたに会うまで、オレは自分が人間である自覚が持てませんでした。それまでオレは自分は物だと。使い捨てなんだとずっと思っていました」


にこりと笑いながら、けれどその口から出てくるのはぞっとしない言葉。


「―――あなたが。気付かせてくれたんです。オレが人間だって。あなたがオレを初めて対等の存在として扱ってくれたんです」



ありがとうございますと、獄寺くんはお礼を言う。けれどそれに素直に喜ぶことも出来ない。



物扱い?消耗品?使い捨て?―――――ずっと!?

ぎりっと奥歯を咬み締める。同い年なのに。オレと獄寺くんは何も変わらないのに。どうしてこうも扱いが違うのか。


「…10代目? どうかなさいましたか?」


心配そうに獄寺くんが声をかけてくる。手をふらふらと伸ばしながら。オレの頬に手を添えて。


「―――何か悲しいことでも?」


…ああ、ああ。そうかこの子は。獄寺くんは。何があったか記憶が戻っても。何があったか痛覚が戻っても。

―――それでも視力は戻っていないのか。獄寺くんは全て雰囲気だけで察しているのか。

ああ、だからあんなにもオレに怪我はないかと問い掛けてきたのか。自分は見れないから。だから。


「10代目?」

「なんでも…ないよ」


それだけを言うのに、こんなに苦労するとは思わなかった。

獄寺くんはオレの言葉をどう受け止めたのか、少し考えて…