I pray for your every happiness anytime.
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「本当…ですか?」


疑問をぶつけてくる。ああ、目が見えなくとも彼の鋭さは相変わらずだ。こんなときにだけ限りだけど。

オレは一瞬言葉に詰まって。どう言葉を紡ごうかと迷って。しかしオレが言葉を出す前に獄寺くんが言い直す。


「…いえ、あなたがそういうのですから、そうなのでしょう。…良かった、です……」


最後の方の言葉はもう聞こえるかどうかで。まるで独り言のような呟きで。

だとするならば…次の言葉も、独り言だったのだろうか。



「も、これで…―――悔いはないです」



「―――――っ」


それは。その言葉の意味は。決定的で、絶望的な、生の諦め。

オレは何か言わないといけないのに。なのにオレの口からは何も出てきてくれない。喉がからからで身体が震えて、熱くて。


「今日、この日に…あなたに会えて…良かった、です…」


獄寺くんはもうオレを見ていない。遠くを見ている。そこはどこだろうか。まさか死後の世界か。それとも…

ボンゴレの、科学班とやらがいるところだろうか。


「………やだ」

「…?」


やっと声が出てくれる。しかしそれはまるで駄々っ子のような、そんな情けない声。


「や、だ、…やだ、やだやだやだやだやだやだやだ!」


それは子供の声。どうにもならないことをどうにかなるよう願う、甘ったれの子供の声。

―――獄寺くんはきっとぎりぎりまで生かされるだろう。…ただし人権のない実験体として。

きっと彼らは獄寺くんの身体を刻んで。傷つけて。獄寺くんが苦しんでもそれでも彼らは止めなくて!


「そんなのヤダ!や…ぁ、やだなの。ごく…っ、え、ぐ…」


獄寺くんにはこれ以上苦しんでほしくないのに。出来ることならどうにか生き長らえてすらほしいのに!

なのに獄寺くんは諦めている。生を諦めている。…自分の扱いを受け入れてしまっている。



いやだ。それはいやだ。全部いやだ。



「10代目…?」


オレの涙が獄寺くんの頬に落ちて。流れる。けれど獄寺くん自身から涙は出てこない。



「―――泣かないで下さい」



無理な注文を獄寺くんはする。泣くなだなんて。それは無理だ。



「…笑って下さい」



更に無茶な注文。そんなこと出来るわけがないのに。


「オレはあなたに逢えて、そして初めて…生まれることが出来たんですから」


ずっとずっと物として過ごしてきたものが、初めて自覚した生。


「あなたに逢って。オレの人生は変わったんです。…そう、毎日が楽しくて…嬉しくて」



それはまるでモノクロの世界に彩度が付いたかのような。あるいは無音の世界に音が現れたかのような。

もとから知ってる者にとってはそれは当たり前で。なんでもなくて。それが当然で。



…けれど。



それがもしも。ないのが普通だったのに、いきなり現れたとしたら。

それはどれのほどの衝撃なのだろうか。世界観が変わるとは文字通りこれを差すだろう。


「オレはあなたに逢えて幸せになれました。それはあなたのおかげなんです。…だから、あなたが泣く必要なんてどこにもないんですよ?」


獄寺くんは笑っている。苦しみを携えているはずなのにとても幸せそうに。


「なんで…!」


どうしてと聞かずにはいられない。理解出来ない納得出来ない。それをどうして受け入れられるのか。

オレのその言葉にも獄寺くんは笑みを絶やさず。

「だって…オレはあなたのおかげで生まれたのですから…だから、あなたの為に死ぬのもまた…当たり前のことなんです」

「そんな事無い!や…獄寺くん、そんなこと言わないでよ…!」

「―――オレは、今は死にすら喜びを感じれます。…オレの死が、あなたを助けることへの手助けになるのですから」


…その言葉にスゥッと、頭の芯が冴えるような感覚を味わう。

ちょっと待て。それは待て。それはつまり。キミは獄寺くんはオレの為ならどんな扱いもそれこそ―――

ボンゴレの科学班の実験体すら喜んで引き受けると。そういうことなのか?

それがどんなに苦しくとも。それがオレの為となるのなら。獄寺くんは全てを差し出すと。そういうことなのだろうか。いや今はそんなことよりも―――


「―――――それは、駄目」