I pray for your every happiness anytime.
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幸せか。否か。それにオレはどう応えればいいんだろう。
獄寺くんがいない日々に幸せなんて訪れるんだろうか。獄寺くんとの思い出だけでオレは幸せになれるんだろうか。
「…もしも。あなたが幸せでないというのなら。―――オレは実験体となります」
それは。残酷な発言。例えオレの命であってもきっと彼の決意は変わらない。
「獄寺くんがそんなことになったら…オレ一生幸せになれないよ?」
応戦。けれど声は少しだけ震えていて。ああ情けない。
「オレが実験体にならずとも、あなたの元へ幸福が訪れないというのなら同じことです。何もしなくてもあなたが悲しむというのなら、オレはあなたの身だけでも守りたい」
それは覆らない想い。強い決意。それを反させる為には…―――そう。
「………分かったよ」
俯いて。言葉を紡ぐ。息が苦しい、この決意はそれほどのことで。
オレは獄寺くんの目を真直ぐに見つめて…
「オレは………幸せに、なる」
痛い。心が痛い。獄寺くんを置いてそんなことを言うなんて。痛くて。苦しくて。
「もちろん…直ぐにはって事にはならないだろうけど…オレは駄目だから、きっと獄寺くんを思い出しては泣いちゃうだろうけど」
獄寺くんもオレをじっと見ている。見えていないはずなのに全てを見透かしているような瞳に、けれどオレは負けない。
「――――――でも、それでもオレは…必ず、必ず…!」
幸せになって見せるから。
そう言うと三度目の涙。でも許してほしい。助けられない愛しい人の前で、その人の願いとはいえ幸せになると言ったのだから。
獄寺くんはくすくすと笑いながらオレの涙を拭う。目が見えないからまず頬に手をやって、そこからゆっくりと目へ手を移して。
「…ありがとうございます。10代目。…ええ、どうぞオレなんかに囚われずに幸せになって下さい」
この…っと思わず悪態をつきたくなる。オレがどれだけ苦労して言ったと思っているんだ。
「…オレが実験体になった場合…あなたは幸せには…なりませんか?」
「当たり前だろ…!!」
「…冗談です。そんな怒らないで下さいよ、じゅ…だいめ…」
獄寺くんの手が堕ちる。身体から力が抜け、ぐったりとベッドに横たわる。
「ご、く…でらくん?」
荒い息。冷や汗が絶えず流れていて…様子がおかしい。
かたかたと身体が震えている。獄寺くんは入院の間に更に細身になってしまった自身をぎゅっと痛々しいほど押さえつけるように抱きしめて。
「ぁ、ああ、ぅあ、…が、ぁ、ぁ、」
その口から洩れるは呻き声。苦しそうな辛そうな。痛々しい声。
「ご―――」
「ひぐ、ぐ、あ、ああ…っあ゛!はぐ、ぁあ、あ、…あああああああ!」
「ごく、獄寺くん、獄寺くん!!」
「―――――隼人!!」
オレが駆け寄る前にどこに隠れていたのか。シャマルが現れて獄寺くんに走り寄る。獄寺くんもシャマルに抱きつく。
「は、あぐ、あ、ああ゛! あ゛、ぁ…シャマ…ゃ、助け…」
「―――チッ」
シャマルは舌打ちして獄寺くんを抱いて部屋を出ようとする。獄寺くんの呻き声は今や叫び声となっていた。
「シャマル!ごく、獄寺くんは…」
「時間切れだ坊主。…ったく無茶させやがって…!」
ドアを閉めることすらせずシャマルは獄寺くんを抱いたまま出て行ってしまった。
オレは追いかけることすら出来ず、ただ先程のシャマルの言葉を繰り返す。
「時間切れ…?いや、それよりも無茶って…?」
++++++++++
それは如何なる意味だったかなんて。オレに分かるはずもなくただただ困惑するのみで。
また逢えると。まだ逢えると信じて疑ってなかった。…直ぐにまた、記憶があるかないかの違いだけで、また獄寺くんに。
馬鹿で愚鈍過ぎるオレは、危機感がまるでなかったんだ。
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