Good-bye. I was happy.
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獄寺の最後の願い。それは結局ツナ自身の幸せだった。

どうしてもツナが幸せになれないというのなら。せめてその身だけでもとあえて実験体へと志願したというのに。

なのにそうはさせまいとしたツナ自身が。獄寺が誰よりも気に掛けたツナ自身が。そうなる努力をしないでどうするというのか。

確かに受けた傷は酷かろう。けれど。ツナは誓ったのだ。幸せになると。



…それを守らないで。それを破って。どうするというのだ。



「―――――わか、てるよ…!」


腹ただしそうに。苛立ち気に。ツナは毛布の中から這い出て。枯れた声で叫んでくる。その目は赤くて。

…ツナもツナで。このままではいけないということぐらいは理解しているらしい。けれど感情に振り回されていると、そんなところか。

けれど足りない。まだ足りない。獄寺の想いには届かない。それではあいつは浮かばれない。


「獄寺は何時如何なるどんな時だって。お前だけを想っていたというのに。お前はそれに応えないのか」

「ちが…」

「お前は獄寺を 裏切るのか」

「違うって言ってるだろ!!」


「どこが違う。何が違う。…今のお前の様を、獄寺が見たらどう思うだろうな」

「………っ」


ツナは言葉に詰まったかのように俯く。反論が出来ないようだ。

けれどここで甘やかすわけにもいかない。そんな事こいつだって望んでない。


「…獄寺は」


そう、いつだってあいつは。思えばどんな時だって。



「お前しか想ってなかったというのに」



オレが獄寺と再開したのは、そう。

獄寺がボンゴレに収納されることになる、その前日。


それはほんの気紛れで。夜。オレは獄寺に会いに行って。

…夜の病室の中。獄寺は苦しんでいた。呻いていた。叫んでいた。


そこには昼の獄寺は見受けられなかった。あの痛覚を感じず。記憶を失って。そしてツナをその名で呼ぶ獄寺は。


「ぃ、ぎぁ、あ、あぐ、―――あああああああ!!」


自身をきつくきつく。見ているこちらが痛みを感じるほど痛々しく抱き締めて。まるでなにかから耐えるように獄寺はそこにいた。



―――そして、不意に。



獄寺がこちらを見た。その目にオレを映した。


「―――――…!」


獄寺の息を飲む声。獄寺の表情が驚愕に変わる。…それよりも前に。

獄寺の身体が跳ねて。その手がオレを捉えようとか刹那の間に伸びてくる。―――――だが、遅い。


「ぐ、ぁぐ、」


オレが避けると同時に崩れ落ちる身体。冷たくて固い床へと堕ちる身体。オレはそんな獄寺に銃口を向けて。


「…なんの真似だ?獄寺」


短くそう言ってやると、獄寺は夢から覚めたかのように呻いて。


「ん………リボーンさん、ですか…?」


その口調の雰囲気に覚える違和感。記憶のなかったあいつとは一致しない。ならば答えは一つ。


「お前…記憶が?」

「あは、は…おひさし、ぶりです…」

「一体どういうことだ。………いや、それよりも…お前、見えていないのか?」


弱々しく笑う獄寺。その目はこちら側を見ているのにオレを見ていない。


「―――――はい。も…ほとんど…見えません」

「お前はいつから出てきたんだ?」

「………夜に起きたら、いつだってオレはオレでした」



いつだって。それはいつからか。



想像してここに入院してきた頃だろうか。それとも…日本に戻ってからずっと。記憶を失ってからなのだろうか。


「ずっと困ってました。…気が付くとずっと夜で。傷が身体に響いて痛くて…薬もないし何も出来ないまま夜が過ぎていくんです…」

「それは災難だったな」



気が付くと。時は夜。

記憶も何もかもを思い出し、けれど抗争の最中で出来た傷に苛まされて。苦しんで。

…いや、さっきオレを攻撃していた事から恐らくツナを攻撃するための殺戮衝動すらも"獄寺"に宿っているのだろう。それら全てを耐えて。堪えて。

そしてそうしているうちに朝が来るのだろう。それが先なのかそれとも獄寺が痛みに耐え切れず気を失うのが先なのか。

そして目が覚めたときには昼の獄寺。記憶がない。痛覚もない。故に危機感も。

身体がどれほど傷を受けていても痛みを感じないのだから。危機感を感じれるわけがない。