Good-bye. I was happy.
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毎晩毎晩苦痛に苛まされていた獄寺。…ただ一晩、最後の日だけを除いては。

あの日。獄寺はふと思いつきで言ったらしい。きっと日本にいるのはもう最後だろうから、出来ることならゆっくりと空を見ていたい。と。

無論視力がもうないのだからそれは無理なのだが。…つまり静かな夜を最後だけでも過ごしていたいと、そう軽く言ったらしい。

それをするのは出来ることは出来る。…ただ、それをするのはやはり薬なのだが。効果が切れたときに今までないほどの激痛が走るだろうとシャマルは警告した。

獄寺はそれを聞いたその上で…それでもと、願ったらしい。そしてその日に。



ツナは来たという―――



気が付くと、ツナは起きていて。…そして相変わらず、オレを睨みつけていて。


「も…、いいから、出て行けよ!」

「お前が立ち直って外に出るというのならな。部屋から出たらまずママンに謝っておけ。心配してるぞ」

「る、っさいな。……外に出て、何するってのさ」


怒りで気力が湧いてきたのか、少しだけツナの身に生気が宿る。…そう、ほんの少しだけ。

ならばそれを少しでも上昇させてやらねばならないだろう。

…それが、ツナの後を任されたオレの務めだ。………最も、最初からそれがオレの役目なんだが。


「何って、そうだな…獄寺の墓参りとか。どうだ?」

「!?」


ツナが驚いた顔でこちらを見てくる。大方獄寺の遺体はイタリアへと収納されたとでも思い込んでいたのだろう。


「シャマルが言ってた。獄寺が最初で最後に駄々を捏ねたと。…イタリアへは戻りたくないんだと」


そう、本当に最後の最後で。苦しみに耐えながら。それでもはっきりと言葉を紡いで。

それはツナの誓いがあったから。ツナが獄寺に約束をしたから。



―――ツナが幸せになると、そう獄寺に言ったから。



だからこそ獄寺が望んだ最後の我侭。今まで散々物扱いされ。使い捨てられるような日々を送ってきた獄寺が初めて人間らしく。

そしてそれに応えたシャマル。幼き頃から知っていた獄寺を助けてやれず、いつも後悔していたシャマルは最後のチャンスとばかりにその願いを聞き入れた。

そうするリスクは高いのに。行ったとして生じるのはデメリットばかりなのに。なのにシャマルは迷いもせず。むしろ良くぞ言ってくれたとばかりに。


望んだ想い。応えられた想い。けれど足りない。あと一つ。まだ一つ。

…それは幸せになると言ったツナが、未だ立ち直っていないということ。

ならば無理矢理にも起こさせよう。さあ起きろ。文句は言わせない。


「それともお前は、獄寺に逢いたくないのか?」

「そ、そんなことっ―――ちょ、着替えるからお前出てけよ!」


毛布を投げつけられ、やれやれとオレは退室する。獄寺効果は期待大だ。これからちょくちょくとこのネタでからかってやろう。

…けれど取り合えず、今日の所は大目に見てやろう。そう、今日だけは。

暫くして出てきたツナはまずママンに謝って…そして獄寺に逢いに行った。


直前に情けない面になったから、オレは「無理でも笑っておけ」と言って。

そしてツナはその言葉に、誰がどう見ても辛そうな表情の上に無理矢理な笑顔を作った。


………そうしてこれが、ツナが立ち直る第一歩となった。


++++++++++

今まで、ありがとうございました。

オレは幸せでした。

オレは生きていました。

それが出来たのは、全てあなたのおかげなんです。

…だから。10代目。あなたへ心からの感謝と祝福を。


―――――あ、内緒なんですけどオレ。…最後は笑っていけたんですよ?