初恋
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その日の昼過ぎ。獄寺が通路を歩いていると、窓から見知った影を見つけた。

獄寺は足を止めて、その影をじっと見て……朝と同じようにため息を一つ吐き、その影の方へと向かった。



「…こんなところで寝ていたら、風邪を引きますよ」


木の陰で寝転がっている、黒い物体に声を掛ける。返事は当然のようにない。


「…リボーンさん」


名を呼び掛けてみるも、やはり影…リボーンの反応はない。完璧に寝入っていた。

リボーンは寝起きが悪いらしく、一度寝るとなかなか起きない。そんなんで最強の殺し屋になれるのか?と言う疑問も湧いたが今目の前にリボーンがいる以上寝起きは関係ないらしい。

獄寺は静かにリボーンの隣に腰掛けた。リボーンは起きず、二人だけの空間が出来る。


獄寺はリボーンをじっと見る。


…獄寺は、周りからよくリボーンに甘いと言われていた。

もっとビシッと言わないと駄目だと。そうでないと付け上がると。だから今の関係が10年も続いているのだと。それが嫌ならもっと厳しく当たれと。

しかしながら。周りは誤解していた。

別段、獄寺はリボーンのことを嫌っているわけではなかった。


むしろ、その逆だった。

獄寺はリボーンを愛していた。

一目惚れだった。


と言っても、それが分かったのは数年後で当時はまだ気付くことが出来なかったが。

最初はただ、リボーンという存在に圧倒されていた。

そんなリボーンに出会い頭に告白されて、パニックになった。

パニック状態でなお断わったのは、獄寺は自分を酷く過小評価しておりそんな自分とリボーンが付き合うことなど到底認められるものではなかったからだ。

それでも食い下がろうとしないリボーンをツナが嗜め、その日は終わった。

しかし困ったのは、それからもリボーンから告白を受け続けたということである。

告白されて帰ってから、「実はあれはリボーンの冗談だったのではないのか?」という疑問も湧き出て、もしそうなら失礼なことをした…と頭を抱えていたのだが次の日も普通に挨拶のように告白をされた。


リボーンは本気だった。初めから。


しかし、獄寺にはやはりそれに応える事は出来なかった。

自分のようなものがリボーンと恋仲になると、最強の殺し屋の名に傷が付く。

自分のせいでリボーンの名に傷が付く。それが何よりも獄寺は嫌だった。

自分の思いに気付いても。いや、気付いたからこそ。好きだからこそ獄寺は自分に正直になれなかった。

こんな半端物が。この人の隣に立つなどなんておこがましい。

この人には、いつか自分なんかよりも相応しい相手が現れる。


そいつが現れたら、この日々も終わる。


いつかその日が来るまで。こうしてリボーンが眠っている時だけ。

今この時だけ。この人の隣にいさせてほしい。ただ隣に。触れることもせず。

それが獄寺の願いだった。独りよがりの満足と分かっていても。


それから少しして、獄寺は静かに立ち上がりまた建物の中へと消えた。

それから少しして、リボーンは昼寝から目覚めて同じく建物の中へと消えた。


数分前に、獄寺が自分のすぐ傍にいたことなど知りもせず。