現実否定
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オレは今日も獄寺くんを連れて散歩する。

今彼が頼れる人間は他にいないから。


ある日、獄寺くんは任務に発った。

戻ってきた獄寺くんは酷い傷を負っていた。


左腕と両足は使い物にならなくなり、残った右腕も満足に動かせず。


鼓膜は破れて周りの声は聞こえず。

喉は潰れて声は出ず。


あんなに綺麗だった緑の眼も潰れ抉れ取れて今は義眼が入ってるだけだ。


でも、それでも彼は生きていた。

そして、それでも彼は死のうとはしない。


アジト内を散歩していると、見知った顔が次々と現れる。

そりゃあみんな獄寺くん大好きだから、声だって掛けて来る。


けれど、もう誰の声も彼の耳には届かない。


誰かに触れられて、それでようやくその存在に気付くのだ。自分とオレ以外の誰かの存在に。

誰ですか?と彼はオレを見上げて問うて来る。オレは獄寺くんに声を掛けてきた人一人ひとりを教えていく。

声も文字ももう彼には解らないから、彼に残った右腕をトントンと叩いて。それを文字として声として伝えていく。


"山本"

"雲雀さん"

"ビアンキ"

"シャマル"

"クローム"

"ラル・ミルチ"


一人ひとり、伝えてく。

だけれど彼の表情は浮かばない。

彼が一番求めるものがいないから。


不意に、獄寺くんが問いかけてくる。車椅子の肘掛を指でトントンと叩いてオレに意思を伝える。

トントン。トントン。

獄寺くんはこう言っている。


"リボーンさんは、まだ見つかりませんか?"


オレに縋るようにして、獄寺くんは問いかけてくる。

けれどオレにはいつものように答えるしかない。

トントン。トントン。


"まだだよ"


オレの返答に獄寺くんは俯いた。口が利けたら「そうですか…」と言ってきそうだ。

獄寺くんは知ってか知らずか毎日きっかり同じ時間に同じ問いを掛けてくる。オレは毎日同じ返答を返す。

きっと獄寺くんが死ぬまで繰り返されるだろう。

オレに真実なんて告げられるわけがない。

だからオレは今日も獄寺くんを連れて散歩する。

今彼が頼りたい彼はもういないから。


ある日、獄寺くんたちは任務に発った。

戻ってきた獄寺くんは、心身ともに酷い傷を負っていた。


獄寺くんの頭の中では、リボーンが獄寺くんを庇って死んだということは"なかった"ことになってるらしい。


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"リボーンさんは、まだ見つかりませんか?"