抱擁
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ずっと昔は、オレが小さなあなたを抱きしめていたけれど。

いつしか追い越されて。オレがあなたに抱きしめられるようになりました。

…ああ、なるほど。あなたがあの時。嫌がっていたのが少し分かります。

確かにこれは…少し。恥ずかしいですね。


「獄寺」

「え?」


すぐ近くで呼ばれて、振り向けばすぐそこにはあの人が。

…え、つか近い。近いですリボーンさん。

思わず怯んで、少し引けば…あの人の手がオレの腕を掴んで。引き寄せられる。


「戻ったぞ」

「…ええ。お帰りなさい。リボーンさん」


そう言う間にもオレの身体はリボーンさんの胸の中で。声がすぐ近くから聞こえて…なんだか、照れる…


「…あの、リボーンさん」

「なんだ?」

「その…恥ずかしい、です…」

「なんだ。これはお前の真似だぞ?」

「…分かってますけど」


そう、これはただの立場逆転だ。

その昔…オレとこの人が付き合い始めたとき。あまりにも小さなリボーンさんが可愛くて愛おしくて…よく、抱きしめさせてもらってた。

あの頃のリボーンさんは「10年後覚えてろ」なんて言ってたけど。まさか律儀に叶えてくるなんて。


「いきなりどうしたんです?」

「戻ってきて、お前を見たら急に思い出してな」


それで行動を起こしてしまうんだから、この人も相変わらずだ。オレにも心の準備というものをさせて下さい。


「…その、リボーンさん」

「なんだ」

「あの頃はすいませんでした」

「今更だな」


まったく持ってその通り。今更だ。10年前のオレをぶん殴ってやりたい。

…でも。


「でも、リボーンさん…なんだかんだでオレの胸の内に収まっていてくれましたよね?」

「そうだな。でも、お前は嫌なら離れても構わないぞ?」


そう言ってはぱっと手を離すリボーンさん。

…意地悪ですリボーンさん。


オレが、あなたから離れるわけないじゃないですか。


「いいえ。こうして好きな人に抱きしめられるのも…とても嬉しいので。離れませんよ」

「かわいいことを言ってくれるな」

「…リボーンさんも昔、オレに抱きしめられていてくれたのは…今のオレと同じ気持ちだったからって。思っても…いいですか?」

「好きにしろ。ならオレもあのときのお前は今のオレと同じ気持ちだったって思っとく」

「どんな気持ちなんですか?」

「手放すのが惜しいな」

「ああ、同じです」


そう言って、二人して笑い合う。

そのままオレたちは、暫くずっとそのままで。

…10代目が「二人ともいい加減にしなよ」とリボーンさんの襟首を掴んでずるずると引き摺っていくまでそのままで。

少し物足りなかったですけど、まぁいいです。


リボーンさん。

あとであなたの部屋まで伺いますね。


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ではまずは仕事を片付けましょうか。