IF キャバッローネの場合
1ページ/全4ページ
それはとある寒い雨の日で。
道の端に、ゴミのように子供が捨てられていた。
こんな光景は治安の悪いスラム街ではよくあることで。
誰もがその子供を道端に転がる石ころのように、意識せず歩いていた。
そんな、誰の目にも止まらない子供を…一人の青年が抱きかかえる。
青年はそのまま歩き出す。途中、子供が怪我を負ってることを知って駆け足になった。
これが少年の、人生の転機。
少年は数日間、目を覚まさなかった。
疲労に怪我、それから栄養失調…少年の状態は芳しくなかった。
だから少年が目を覚ましたと部下から報告を聞いたとき、青年は本当に嬉しかった。急いで会いに行った。
「よお!目が覚めたんだってな!!気分はどうだ?」
「………」
明るく笑う青年に、少年はぎろりと睨めつける。
「おいおい怖い顔するなよ。それとも傷が痛むのか?まさかオレの部下が何か言ったか!?後でオレから言っとくから、許してくれよ」
「………」
「まさか口が利けない…ってわけじゃないよな?獄寺隼人」
青年のその言葉に、獄寺と呼ばれた少年が反応する。睨む目付きが更に鋭くなる。
「…なんで…オレの名前を……」
「お。やっと声を聞かせてくれたな。そりゃお前、オレはお前のファンなんだよ」
「は…?」
「悪童スモーキンボム。数年前からこの辺りを根城にしている悪ガキにして…あの獄寺の城の一人息子。オレお前のピアノの演奏会に行ったこともあるんだぜ?」
ピアノの演奏会。その言葉に獄寺は顔をしかめさせる。
「ん?どうした?」
「演奏会には…いい思い出がないんだよ」
「そうか?確かに変わった演奏だとは思ったけど」
「……そんなお喋りをするためにオレを拾ったのか?キャッバローネ10代目跳ね馬のディーノ」
「ん?オレのこと部下に聞いたのか?驚かせようと思って口止めしてたのに」
「隠しておきたいんならその刺青は見えないようにしておくべきだな。そいつは特徴的過ぎる。名札付けて歩いているようなもんだぜ」
「そうか…なるほどな。今度からそうするわ」
毒舌を吐く獄寺に対し、あくまでディーノは朗らかに、カラカラと笑う。
「起きたばかりで話させて悪かったな。まあ、怪我が治るまでゆっくりしていってくれ。大丈夫ここはオレのアジトの一室だ。安全な場所だぜ」
「………」
獄寺はディーノにどんな下心があるんだと、探るように見つめる。
それに気付いたディーノは、少しバツが悪そうに謝罪した。
「すまん。スモーキン」
「…?」
「お前を運んでいるとき、雨が降っていたからかよく滑ってな。滑って転んでお前の足折れたんだわ」
「いくつか覚えのない怪我があると思ったらそういうことかよ!!」
獄寺は怒り、怒鳴ったがディーノの近くにいる部下さえ何も言えなかった。
ディーノは毎日獄寺の見舞いに訪れる。
見舞いの品と、笑顔を持って。
「よおスモーキン!調子はどうだ?」
「………」
基本的には、無視されるのだが。
しかしディーノはめげず…というか、気付かず。毎日獄寺の病室に宛てた部屋に訪れる。
「寝てるだけじゃ退屈だと思って本を持ってきたんだ。読むか?」
「………」
「市場で果物貰ったんだ。剥いてやるよ。……いて!!」
「………」
「今日客人からクッキー貰ったんだけど、食うか?」
「いらねえ!!」
獄寺はクッキーだけは異様なほど拒絶反応を見せた。
毎日毎日訪れるディーノに獄寺も根負けしたのか、少しずつ相手をするようになった。
「スモーキン、今日はな……」
「…毎日毎日よく来るな。仕事はいいのか?」
「いいんだよ」
「よくねえよ」
否定の声を出したのは、ディーノの右腕たるロマーリオ。
「ボス、仕事が溜まってるんだぜ?さっさと片付けてくれよ」
「いや、しかしだな。スモーキンが寂しがっちゃいけねえ。そうだろ?」
「誰が寂しがるんだ!!」
「悪童の坊やもこう言ってるぜ?」
「誰が坊やだ!!」
獄寺は概ね、キャバッローネファミリーの人間に受け入れられていた。
最も、中には数人。心無いことを言う人間もいたが…
「穀潰しの雑種が」
「いつまでここにいるつもりだ?」
「お荷物」
「早く出て行っちゃくれないか」
「それとも―――このままここに、図々しく居座るつもりか?」
次
戻