IF キャバッローネの場合
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「すまん!!スモーキン、本っっっ当にすまん!!」
部下の心無い発言を聞いたディーノは獄寺に平謝っていた。
心底すまなさそうに謝るディーノを尻目に、獄寺は憮然とした顔でそっぽを向いている。
獄寺としては、言われ慣れているといえば言われ慣れているのでいちいち腹を立てたりはしない。
何より別にディーノに中傷されたわけではないのでディーノに謝られても意味はない。ディーノからしてみれば部下の失態は自分の失態ということなのだろうが。
「あいつらも悪気があったわけじゃないんだ。あいつら最近入ったんだが、何か変な幻想抱いてきたらしくてな。想像と違ってて気が立ってたみたいなんだ」
それで八つ当たりされたのだとしても、獄寺としてはたまったもんじゃない。
「あいつらにはオレからきつく言っとくから、どうか許してくれ。…な?」
まるで雨の日、捨てらてた子犬が見つめてくるような目を向けられる。
相手は年上であるにもかかわらず年下を相手しているような気分になり、獄寺はだんだんどうでも良くなってきて肩を竦めた。
「なあ、スモーキン、スモーキン!!」
ある日、ディーノが声を弾ませて獄寺のもとに訪れた。
「な…なんだよ」
「ピアノ!オレピアノ買おうって思ってるんだけど!!」
「お…おう。好きにしろよ」
「買ったら一曲弾いてくれ!!」
「はあ…?」
子供のように目を輝かせて言うディーノに獄寺は呆れ声を返す。
何故、自分がそんなことを。
「やなこった。歌ってほしい小鳥が欲しいなら、ピアノとセットで買えよ」
「オレはお前がいいんだよー!お前のピアノのファンなんだよー!!」
「オレのピアノ…ねえ」
公の場で弾いたピアノなど、あんなの演奏ではない。意識を保つだけで精一杯で、楽譜を見る余裕すらなかったのに。
発表会の思い出はいつも同じ。毒を作る姉。息子の不調に気付かず背中を押す父。そして物珍し気に、舐め回すように見てくる観客の眼。
「絶対ごめんだ」
「えー!!」
ディーノはへこんだ。
「ちょっとでっかい山と今度激突するんだ」
ある日、ディーノはそう言ってきた。
「その日はファミリーの人間ほとんど連れて行くから、アジトは静かになるけどそういうことだから」
その話を聞きながら、獄寺は怪我の具合を確認しながら思った。
そろそろ潮時だな、と。
全快ではないが、スラムに戻れぬ程ではない。いや、逆に手負いの方が警戒心が持てていい方だ。
足の怪我も、大体治った。歩けるし、一応……走れもする。痛みも走るが。
いつまでもこんなぬるま湯のような生活を送るつもりは獄寺にはない。勘も腕も鈍ってしまいそうだ。
またあの街に戻り、その日暮らしを送り…どこかのマフィア入りを夢見る暮らしをするのだろう。
…ならば。それならば。いっそのことこのキャッバローネファミリー入りを頼み込んでみるのはどうか。
その考えは幾度か頭を過ぎった。
元より、獄寺はファミリーと見れば自分を売り込んできた。
…そして、その度に断られてきた。
容姿、年齢を理由に断られたこともあった。話を聞いてもらえない時もあった。暴力を振るわれたことも。
それでも、獄寺は諦めることをしなかった。諦める理由などなかった。
自分を嫌う人間など、成果を上げて無理矢理にも認めさせればいいというのが獄寺の考えだ。
しかし…ここに来て。見下される眼にあまり触れなくなって。その心地よさに気付いて。
時折、その心地よさに甘えてしまいそうになる。身を委ねてしまいそうになる。
だが…その度に、一部のキャッバローネファミリーに言われたあの心無き中傷の声が頭を過ぎって。
それに傷付く自分に驚いてしまう。あの程度の言葉、聞きなれてるはずなのに。
…もし、あんな言葉をディーノに言われたら。
入ファミリーを拒否されたら。
そんな想像をするだけで、獄寺の胸に刺されたかのような痛みが走る。
ディーノの方から言ってくれないかとも思った。
キャッバローネファミリーといえばボスであるディーノのスカウト率が高く、少しでも気に入った相手がいると誰彼構わず引き入れると聞いたことがある。
しかしディーノは毎日見舞いに来るものの、スカウトするような素振りは一切獄寺には見せなかった。
自分に愛想良くするくせに、ファミリーにはいらないのか。と腹立だしく思って。
受身の態勢の癖に、待ってるだけで文句を言う自分にも腹が立って。
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